テロの未然防止へ情報機関設立を


 テロ集団「イスラム国」による日本人人質事件を契機に、内外の国民をテロから守るための方策が真剣に検討され始めた。それ自体は結構なことだが、テロの本質についての誤解を踏まえての的外れの提言が多い。

いち早く察知する任務

 テロへの対応策を考える際に重要なことは、テロとの戦いの中心は情報戦だという認識である。1996年に発生した在ペルー日本大使公邸人質事件の場合でも、軍事力の使用は最初と終わりだけである。ほとんどの期間は、テロリスト側と当時のフジモリ政権側とのマスメディアを通した情報の戦いが展開された。

 対応は積極策と消極策の二面で考えることが必要だ。石破茂地方創生担当相が秘密情報機関の設立を提唱したのは、積極策として的を射ている。

 対テロ特殊作戦部隊設立の提言が多く出されているようだが、人質が拘留されている場所が分からなければ出番はない。それを探し出すのは秘密情報機関の役割だ。

 その点もさることながら、緊要なのはテロの動きをいち早く察知し、未然に防止することである。このような情報収集は、在外公館の外交官には無理な任務である。収集には国際裏社会に潜入し、時にはダーティーな取引、行動をすることが必要であるからだ。

 今回の事件に際しても、2人の人質を助けるために「イスラム国」や「人質取引仲介業者」との接触が模索されたようだ。しかし、事が起こってからでは遅い。常日頃から“腐れ縁”を保っていて初めて、有事にこの関係が役に立つのである。第2次大戦前から、日本が秘密情報機関を保有していなかった点を反省すべきである。

 政府はこれまで滞在地での内乱等に巻き込まれた在外自国民の救出に際し、その国の政府の了承を必須条件としていた。今回のケースでも、仮に対テロ部隊が出動するとすれば、人質が囚われている国の了承が大前提となるとしている。しかし、この条件は部隊出動を事実上否定することになる。

 人質を捕まえているのが相手国政府であれば許可するはずはない。問題はテロリストに同情的でその活動を黙認している国家、人質を連れ込んでいる地域にまで有効な統治が及んでいない国家の場合である。いずれも部隊投入を内政上の理由から表向きは断っても、国際世論や対日関係に配慮して内心では容認する場合が少なくない。相手国側の本心を読み取るのも、情報機関の任務である。

 消極策としては、国民すべてがテロの本質について的確な認識を持つことだ。テロリストが人質を取ったり殺害したりするのは、対象者が憎いとか自らに害を及ぼしたからというわけではない。マスメディアを通して世界の耳目を集め主張を宣伝したり、諸国民に恐怖心を植え付けたりするのが狙いである。

脅しに屈しない覚悟を

 つまり、誰でもテロの対象になるのだ。この点を理解し、国際社会の平和のためには断固として脅しに屈しない覚悟、注意深い行動が、政府のみならず国民にも求められる。

(2月4日付社説)