白鵬最多優勝、「綱」の重みで成し遂げた偉業
大相撲の横綱・白鵬が初場所で千秋楽を待たずに33度目の優勝を決め、「昭和の大横綱」と言われた元横綱・大鵬を抜いて、44年ぶりに歴代最多優勝記録を塗り替えた。
日本の文化や精神学ぶ
大鵬と双葉山の両横綱を目標に相撲に精進してきた、たゆまぬ努力の結果である。白鵬の強さと安定感は、現役力士はもちろん、歴代力士の中でも際立っている。
相撲は「心・技・体」と言われるが、この三つがバランス良く備わっていることが、その基礎にある。
今でこそ力士として理想的な恵まれた体型と柔軟な筋肉を備えているが、15歳で来日した時は体重が62㌔ほどしかなかった。基本に忠実な稽古の積み重ねで、理想的な「体」を作り上げた。2007年に横綱に昇進して以来休場がないのも、その賜物と言える。
しかし、白鵬をここまで成長させたのは「心」の部分、精神的な構えが大きい。白鵬の姿勢の根底には、相撲が日本の伝統ある国技であり、特別な競技という認識がある。そのため、日本の伝統文化やその精神にも関心を持ちそれらを学んできた。昨年の九州場所で大鵬と並ぶ32回優勝を決めた時には「この国の魂と相撲の神様が認めてくれたから、この結果があると思う」と述べている。
この姿勢が「綱」の重みへの人一倍の自覚となっているのではないか。10年初場所後に先輩横綱の朝青龍が突然引退した時は「大変な道が待っていると思うが、頑張っていく」と一人横綱としての覚悟を語った。
そして翌11年、大相撲は八百長問題で揺れに揺れた。春場所が中止となり、技量審査として行われた夏場所で優勝はしたものの、天皇賜杯を受けることができなかった。その時の千秋楽の優勝セレモニーで見せた涙は、大相撲に懸ける白鵬の熱い思いを語るものだった。
白鵬がこの時期、大相撲の価値と再生を信じて相撲界を引っ張り横綱の責任を果たしたことは、歴代最多優勝に並ぶ功績として記憶されるべきものだ。
29歳の白鵬は今後さらに優勝記録を伸ばしていきそうな勢いだが、注文もある。勝負がついているにもかかわらず駄目を押すようなことが時に見られるが、それは横綱の相撲ではない。前人未踏の領域を行く中で、さらにその品格も磨いてほしい。
初場所はきょうの千秋楽の前売り券が完売し、全15日の満員御礼(大入り)が確実となった。1997年の初場所以来、18年ぶりという。大相撲人気の回復の背景には、遠藤(24歳)や逸ノ城(21歳)ら若手の人気力士の台頭がある。
他の力士の奮起を期待
白鵬時代はまだ続きそうだが、やはり相撲は実力の拮抗したライバル同士が、優勝を賭けてぶつかり合うところに醍醐味がある。
日馬富士、鶴竜の2横綱、そして大関陣がさらに力をつけ、若手の力士が白鵬を脅かすようになれば、人気を回復した大相撲が日本だけでなく海外のファンをもさらに沸かすことになるだろう。力士たちの奮起を期待したい。
(1月25日付社説)