人質画像、卑劣で残忍なテロを許すな
中東の過激組織「イスラム国」を名乗るグループの人質となった日本人、後藤健二さんと湯川遥菜さんのうち、湯川さんが殺されたとの情報が行き交っている。
事実であれば、天人ともに許さざる暴挙だ。世界各国から非難の声が沸き上がっている。人質をすぐに解放すべきだ。
日本人1人を殺害か
犯行グループがツイッターに投稿した画像では、後藤さんとみられる男性が首を切断された人物の写真を持っている。添付の音声メッセージの中で、湯川さんが殺害されたと述べた。写真や音声の信憑(しんぴょう)性は明らかでないが、安倍晋三首相は「信憑性は高いと言わざるを得ない」との認識を示している。本当に湯川さんが殺されたのであれば、卑劣で残忍極まりない蛮行であり、到底許すことはできない。
音声メッセージによると、犯行グループは「もはや金銭を望んではいない」として、身代金2億㌦(約235億円)という従来の要求を取り下げた。その代わりに、ヨルダンで拘束中のイラク人、サジダ・リシャウィ死刑囚の釈放を求めている。
リシャウィ死刑囚は2005年、ヨルダンの首都アンマンで起きた同時自爆テロで、夫と共に自爆しようとして失敗した。ヨルダン政府を巻き込んで新たな釈放要求を突き付け、日本政府を揺さぶる狙いがあろう。
彼らに対応する上で最も大切なのは、要求を断固として拒否することだ。ひとたび受け入れれば、要求はますますエスカレートしよう。また、それが「悪しき前例」となるので、国際社会からの非難の的となる。
「イスラム国」はシリアとイラクにまたがる地域に勢力を拡大している。イスラム教を極端に解釈して住民に押し付ける組織だが、アラブ諸国や欧米の若者をも引きつけてきたのは、現状に対する彼らの不満の「受け皿」としての魅力があるためだろう。
しかし、安易な気持ちで参加する若者が厳しい規律についていけず、離脱するケースが増えているとも言われている。シリア北部ラッカで逃亡を試みた外国人戦闘員約100人が処刑されたとの報道もある。
また「イスラム国」の最大の資金源である石油に関しても、昨年9月の段階で日量約8万バレルを闇市場で売却していたが、米軍の空爆で生産や貯蔵施設が破壊され、日量最大1万バレルに低下したとの推計もある。
一方、「イスラム国」は謎の多い組織であり、不明な点が多い。国際社会が連携して弱体化させるには、情報を収集して徹底的に分析する必要がある。
また、これまでは人質を殺害した際にむごたらしい動画を公表してきたが、今回は画像と音声にとどまっている。この背景を探ることも求められよう。
解放にあらゆる努力を
安倍首相は「後藤さんに危害を加えないよう、直ちに解放するよう、強く要求する」と呼び掛ける声明を出した。
オバマ米大統領との電話協議では、テロに屈せず早期解放のために協力していくことで一致した。中東諸国との連帯も強化するなど、あらゆる努力を重ねるべきだ。
(1月26日付社説)