欧州で拡散続ける過激思想

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

対策講じないオバマ氏

「テロとの戦争」は新段階へ

 11日、パリで大集会が行われ、世界はシャルリ一色となった。だが13日には、この連帯は薄く、うわべだけのものであることが明らかになった。連帯は、シャルリエブド紙が襲撃事件後も変わることなく、表紙にムハンマドを掲載してすぐに崩れ始めた。

 400万人の人々、44人の外国の指導者がフランスの街頭でのデモ行進に参加し、脅迫に対し「ノー」を宣言し、連帯を誓ったばかりだ。「私はシャルリ」をスローガンに、極めて挑発的で、時には趣味の悪いムハンマドの漫画を掲載してきた風刺週刊紙との連帯を訴えた。しかし、48時間内に、悲しそうで、憐れむような顔のムハンマドの漫画を掲載したシャルリエブド紙最新版が発行されると、強い抗議と非難が起こり、暴力の脅しが出ると、欧米では表現の自由の正当性と限界について新たな疑念と自責の念が出てきた。救いようがないとはこのことだ。

 オバマ大統領は、シャルリにはならなかった。事件後48時間までの間もそうだった。襲撃の日からずっと、ほとんど目につくことはしていない。幾つもの政治集会の合間を縫うように、控えめで遠回しな当たり障りのない発言をしただけだ。その後、パリのデモ行進に米国が高位の代表を送らなかったことが明らかになった。

 これは単に判断ミスや有権者への配慮などというものではない。まして、一般に考えられているとみられるように、コミュニケーションのミスから、デモ行進の重要さが、現実的であれ象徴的であれ、スタッフから知らされていなかったなどというものでもない。

 沈黙に続いて、デモに高位の人物を派遣しなかったのは、「テロとの戦争」という考え方そのものに対して大統領が深い迷いを抱いていたことの表れにほかならない。オバマ氏は就任当初から、公式な場でこの言葉を使うことを避けてきた。以来ずっと、(a)この戦争は「米国人を恒久的な戦時体制にとどまらせ続ける」という被害をもたらすものであり、終わらせなければならない、または(b)ビンラディンが死亡し、アルカイダは「逃亡中」であることから、この戦争はすでに終わった、と言い続けてきた。2012年の大統領選では、テロとの戦争は終わったと繰り返し主張した。

 だからこそオバマ氏は、国防大学での主要演説で、テロとの戦争の法的根拠そのものである連邦議会の2001年軍事力行使権限法を「改善し、最終的には廃棄」するよう求めた。だからこそ、30%は戦場に戻ることを知っていながら、グアンタナモの収容者らの釈放を進めた。新石器時代以来、戦争捕虜が戦争終了後、解放される傾向が強まってきたのは確かだ。

 だが、パリの出来事は、これが戦争ではないことを示している。その逆だ。荒れ狂いながら、不吉な第3段階へと向かっている。

 第1段階は、9・11のころに当たる。中東のテロリストが国外に送り出され、不信心な欧米を攻撃した。

 次は一匹おおかみだ。国外の聖戦主義者らに刺激を受けた現地の個々人が、個別に攻撃を行う。最近ではケベック、オタワ、シドニーで起きた。

 パリの事件は第3段階に入ったことを示している。国外から刺激や指示を受けた、国内で育ち、地元の言葉を話すイスラム主義の戦闘員らが互いに連携して攻撃を行った。シャルリエブド襲撃では、「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」が犯行声明を出し、ユダヤ食料品店の襲撃犯は「イスラム国」への忠誠を表明した。戦闘員らは欧州内の立ち入り禁止区域で生まれ、成長していった。イスラム法が支配し、国家の権力があえて入ろうとしない地域だ。

 わが国の無知な司法長官のように、この襲撃犯らを一匹おおかみと呼ぶと聖戦主義を見誤ってしまう。シドニーで起きた、憐れな、精神的に不安定な人質事件の犯人と変わらないということになってしまう。

 パリの襲撃犯らは、訓練を受け、激しい過激思想を持ち、はっきりとした意識を持つ聖戦戦士だった。一匹おおかみとして片付けることはできない。さらに悪いことに、襲撃犯らは、欧州で社会から疎外されたイスラム教徒の世代の一員であり、その数は増加を続け、危険水域に近づいている。

 2015年のテロとの戦争は、場所を変えて、新しい段階に入る。その中心にいるのは、自称カリフらだ。シリアとイラクではイスラム国、アフリカ中部では、ボコ・ハラムが統治者のようにふるまい、ナイジェリアからカメルーンに拡大している。荒れ果てたイエメンには、アルカイダ系組織の中で最も危険なAQAPがある。その先には、第三世界の、国家の統治の及ばない地域の中に組み込まれたミニ・カリフ制国家が広がる。リビアからソマリア、パキスタンにまで及ぶ広大な地域だ。さらに、他者の立ち入りを許さないイスラム主義者らの島々の列島が欧州の中心部に組み込まれている。

 深刻な問題だ。規模も影響力が及ぶ範囲も拡大している。わが国の大統領はこの点に関して何も言わない。困ったことだが、見えてすらいないのかもしれない。

(1月16日)