スリランカ、中国傾斜から脱却も

シリセナ新大統領が就任

 8日行われたスリランカ大統領選挙で、現職のラジャパクサ大統領の親中路線に反対してきたシリセナ氏が野党連合の統一キャンペーンに成功し当選した。9日の大統領就任式では、野党、統一国民党(UNP)党首のウィクラマシンハ元首相が同時に新首相に就任。シリセナ新大統領は、ラジャパクサ前大統領が2010年の憲法改正で行った大統領の3選禁止条項の撤廃、最高裁長官や検事総長の大統領による任命といった規定を全て廃止し、強大になり過ぎた大統領の権限を縮小するなど民主化路線を公約しているが、注目されるのは中国に傾斜した外交路線の転換だ。(池永達夫)

第2のミャンマー路線選択へ

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9日、スリランカのコロンボで行われた就任式で宣誓するシリセナ新大統領(中央)(AFP=時事)

 インド南端にあり東西シーレーンの要の位置にあるスリランカへ囲碁の布石のように、関係強化に動いてきたのが中国だった。かつて同国最大の援助国は日本だったが、それも2009年以後、中国に取って代わられた。同国への投資額でトップに立ったのは中国だ。

 ラジャパクサ前大統領の故郷である南部ハンバントタには、中国が資金を提供して南アジア最大級の港湾を整備した。また中国は、そのハンバントタにコロンボ国際空港に次ぐ第2の国際空港を完成させてもいる。

 ハンバントタ港の沖合10㌔は、中東からの原油タンカーが行き交うシーレーンでもある。スリランカ政府が中国の艦船に寄港を認めれば、中国は日本や韓国、台湾へのエネルギー補給路を牽制(けんせい)するバーゲニングパワーを持つことになると懸念されていた。

 中国はラジャパクサ前大統領に大量の武器弾薬を提供し、政府軍が四半世紀以上にわたってジャフナなど北部地域で活動してきた反政府ゲリラ組織「タミル・イーラム解放のトラ」(LTTE)を壊滅させる力になった経緯がある。

 ラジャパクサ前大統領は、その中国の力を利用し、港湾や道路、空港といったインフラ整備の資金を確保してきたが、大統領選でシリセナ氏は「スリランカは浅はかな外交によってイメージが破壊され、急速に国際社会からの孤立を深めていた」と批判した上で欧米やインド、日本などを重視したバランス外交への展望を語った。

 スリランカは軍事政権の後ろ盾となった中国への依存から脱却し欧米や日本などを重視した外交路線へと転じたミャンマーと同じ道を選択する見込みだ。

 驚きを隠せないのは「真珠の首飾り」戦略を発動させてきた中国だ。

 「真珠の首飾り」戦略とはインド半島を首に見立てて、パキスタンやモルディブ、スリランカ、バングラデシュ、ミャンマーなど拠点を構築してきたインド洋への布石をいう。中国とすれば中東やアフリカから原油を輸入するシーレーンを守る意味もあるが、20世紀の海・太平洋に次ぐ21世紀の海・インド洋への足掛かりを確保するためと考えられている。

 中国はバングラデシュと、昆明・チッタゴン間を幹線道路で結ぶことを基本合意済みだ。ネパールとはラサとカトマンズを鉄道で結ぶ協議を始めている。パキスタン西部のグアダル港ではシンガポールの港湾管理会社PSAから中国に管理権が移り、同港から中国につながるカラコルムハイウエー沿いにパイプライン建設計画も進行中だ。

 今回のスリランカ大統領選挙の結果は、こうした中国の「真珠の首飾り」戦略に逆風が吹き始めたことになる。

 一方、安堵(あんど)の色を隠せないのがインドだ。インドとしてみれば中国の「真珠の首飾り」戦略は自分の首を絞める安全保障上の脅威だった。

 年の瀬も迫った昨年年末、中国の王毅外相はカトマンズを電撃訪問し、「両国の友誼(ゆうぎ)関係に揺るぎはない。早い時期に李克強首相がネパールを訪問する」と述べた上で、発電所建設に16億ドルを貸与するとした。この額はインドがネパールに対して行っている経済援助を凌駕(りょうが)する。インドは露骨な中国の札束外交に不快感を示したが、王毅外相はさらにバングラデシュを訪問し「バングラデシュの発展に中国は寄与したい」として、インドの裏庭を荒らすかのような外交攻勢にさらされ続けている。

 そうしたインドとしてみれば今回のシリセナ新大統領誕生を契機に、中国南進を食い止めインド洋の安全保障を担保するためにも反転攻勢に打って出ることになる。