過激派犯行声明、各国はテロ根絶に向け連携を


 イエメンを拠点とするテロ組織「アラビア半島のアルカイダ(AQAP)」は、フランスの風刺週刊紙シャルリエブド本社襲撃事件への関与を認める声明を出した。表現の自由を暴力で踏みにじったことは決して許されない。国際社会はテロ根絶に向けて連携を強化すべきだ。

 フランスで大規模行進

 声明ではイスラム教の預言者ムハンマドへの侮辱があったため「報復としての作戦」を実行したと強調。事件の実行犯シェリフ・クアシ容疑者は特殊部隊に射殺される前、地元メディアにAQAPからテロを実行するよう指示されたと主張した。

 シャルリエブド襲撃など17人が犠牲となった連続テロ事件を受け、フランス全土で「史上最大」(内務省)となる約370万人が参加する追悼デモ行進が行われた。パリではオランド仏大統領のほか、キャメロン英首相、メルケル独首相を含め約40カ国の首脳が参加した。

 デモに先立ち、米英仏独や欧州連合(EU)欧州委員会など約15の国・機関の治安担当閣僚らがパリで緊急会合を開催。連続テロは「民主主義への脅威」との認識で一致し、再発防止に向けて協力する決意を確認した。テロ根絶にこの決意が生かされることを望みたい。

 ただ心配なのは、テロへの非難が行き過ぎてイスラム排斥運動へと転化することだ。フランスには北アフリカからの移民が多く、人口の7~8%に当たる約500万人がイスラム教徒だと言われる。連続テロの発生以来、パリや各地でモスクやイスラム教徒への攻撃が続発しているのが気掛かりだ。

 ドイツではドレスデンに2万5000人、ライプチヒに約5000人がドイツ国旗を持って集まり、市内を練り歩いた。呼び掛けたのは「西洋のイスラム化に反対する愛国的な欧州人(略称ペギーダ)」を自称する民族主義的な政治団体だ。反イスラムをスローガンに、ドイツ国民の民族主義・愛国心に訴えて政界への進出を狙っているようであり、警戒する必要がある。

 一方、シャルリエブドが襲撃事件後の特別号でムハンマドの風刺画を表紙に掲載したことはイスラム教徒の反発を招いた。トルコ・イスタンブールの抗議デモでは、多数のイスラム教徒が「預言者よ、怒りを収めたまえ」と叫びながら行進した。

 民主主義の柱は信教および表現の自由である。それ故に今回の事件は、まさに民主主義の根幹を揺るがそうとする挑戦であり、絶対許すことはできない。しかし宗教を冒涜(ぼうとく)し、社会の混乱につながりかねない表現は慎むべきだろう。

 テロ根絶にはイスラム教徒の協力も欠かせない。国際連携が乱れれば過激派の思うつぼだ。フランスの行進には多くのイスラム教徒も参加した。「テロを起こした狂信者はイスラム教徒とは関係ない」と国民に訴えたオランド大統領の指摘は正しい。

 国民融和実現が課題

 仏独両国では反イスラム機運の高まりに比例して、イスラム系の若者が過激化し、それが反イスラム・ムードをさらに広めるという悪循環に陥ることが恐れられている。国民の融和をどう実現するかが課題だ。

(1月18日付社説)