STAP問題、研究者への倫理教育徹底を
STAP細胞の論文問題で、理化学研究所が外部の有識者を集めてつくった調査委員会(委員長・桂勲国立遺伝学研究所長)は、この細胞について万能細胞のES細胞(胚性幹細胞)が混入された可能性が高いとの調査結果を公表した。
しかし混入した人物は特定できず、故意か過失かの判断は見送られた。理研は調査の終了を表明したが、疑問点は残されたままだ。
ES細胞混入と判断
調査委は小保方晴子元研究員や共著者の若山照彦山梨大教授の研究室に残っていた「STAP幹細胞」などを調べた結果、「STAP細胞の証拠となる細胞は、すべてES細胞の混入で説明できることが科学的証拠で明らかになった」と判断。7月に撤回された論文に関しては「ほぼすべて否定された」と結論付けた。
理研はすでにSTAP細胞の検証実験を打ち切り、小保方氏は退職している。調査委の報告書は、小保方氏の実験データがほとんど存在せず、間違いも非常に多いと指摘した。
桂委員長はSTAP問題が起きた要因として、小保方氏が実験当時所属した理研発生・再生科学総合研究センター(CDB)の若山研究室で「オリジナルデータをチェックできなかったこと」を挙げた。小保方氏はもちろん、若山氏や論文の指導役で8月に自殺した笹井芳樹氏の責任は重い。
だが、ES細胞がどういう経緯で混入されたかは解明できなかった。小保方、若山両氏ら調査委が聞き取りを行った全ての関係者は混入を否定している。理研の有信睦弘理事は、報告を受けての会見で「調査委が可能なことはやり尽くした」と述べ、STAP問題の調査を終了する考えを示したが、このままでは信頼回復は難しいだろう。
問題が長引いた背景には、理研が原因解明に及び腰だったことがある。論文は1月に英科学誌ネイチャーに発表された直後からインターネット上で疑問点が指摘されていた。
この時点で本格的な調査を行っていれば、もっと真相に迫れていたはずだ。しかし3月の調査は、論文について小保方氏の不正行為があったと認定するにとどまった。
理研は、日本の科学研究全体への信頼を損なったことを猛省すべきだ。岸輝雄東京大名誉教授が委員長を務める改革委員会は6月の報告書で、小保方氏を採用したCDBには人工多能性幹細胞(iPS細胞)研究を凌駕する「画期的な成果を獲得したいとの強い動機があった」と指摘した。
行き過ぎた成果主義に陥っていたのではないか。理研は指摘を重く受け止め、研究者への倫理教育徹底などの改革を進めなければならない。
危機管理体制構築も課題
もっとも最近は研究分野が細分化し、共同研究論文の場合、共著者が担当した部分で分からないところがあることも珍しくない。今回のような問題は全ての研究現場で起こり得ると考える必要がある。
再発防止だけでなく、万一の事態が生じた際の危機管理体制の構築も課題だ。
(12月28日付社説)