中米ニカラグアで世界最長の運河、着工へ

全長278㌔、総工費6兆円

巨大インフラ未経験の香港企業、実現に疑問符も

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ニカラグア運河計画とパナマ運河

 中米パナマを貫くパナマ運河とその一帯は、長年にわたって海運の要衝として扱われてきた。地政学的な意味では、太平洋と大西洋をつなぐ要として、米国が長年にわたって施政権を含めて強い影響力を発揮してきた場所でもある。そのパナマ運河では、現在、交通量の増大や世界的な船舶の大型化の傾向を受けて「ポスト・パナマックス」の時代に向けた拡張工事が行われている。ところが、そのパナマからコスタリカをまたいだ中米ニカラグアにおいて、中国系資本(香港企業)による世界最大規模の「ニカラグア運河」建設が始まろうとしている。

 ニカラグア運河の建設に関しては、ニカラグア政府が今年7月に計画を承認、運河建設の技術的問題や環境問題への影響などを調査した後に、今月22日にも工事が始まる予定となっている。工事が順調に進めば2019年に完成、運用は20年から開始される。

 同運河の建設計画によると、総延長距離は278㌔にも及び、パナマ運河(全長約80㌔)だけでなく、スエズ運河(全長約193㌔)をも超える世界最長の運河となる壮大な事業だ。完成すれば、間違いなく21世紀を代表する建築の一つになる。

 また、運河建設に伴い、港湾や空港、自由経済区など多くの施設が建設、運用される予定となっており、運河の運用も含めて中南米最貧国の一つとして知られるニカラグアに大きな経済圏が新たに生まれることにもなる。

 工事を請け負うのは、中国系の香港企業・ニカラグア運河開発投資有限公司(HKND)。港湾施設等を含めた工事の総工費は最大500億㌦(約6兆円)にも達し、ニカラグアの国家予算の4年分にも相当する膨大な資金を要する。

 ニカラグア運河の工事がもたらす経済効果に関して、同国のオルテガ大統領は、人口600万のニカラグアで5万人近くの雇用を生み、運河完成後には関連施設も含めて約20万人の雇用を創出する可能性があると強調する。

 また、ニカラグア運河は、受け入れ可能な船舶のサイズに関して、16年に拡張工事を終えるパナマ運河をも大きく上回っており、40万㌧規模のスーパータンカーさえも受け入れが可能になるという。南米などの産油国から中東を経由せずにアジアへ向かうことも可能となり、ニカラグア運河は、世界の海運事情をも大きく変える可能性がある。

 完成後の運営に関しては、HKND社が完成後50年間の運用を約束されており、オプションでさらに50年の延長も可能だと言われる。

 さらに、オルテガ大統領は、ニカラグア運河のもたらす経済効果は、国民の半数近くが貧困層に属しているニカラグアで貧困対策にもなり得ると強調する。

 一方、運河の建設に関して疑問を投げ掛ける声も少なくない。一つは、工事を請け負うことになっているHKND社は、ニカラグア運河の建設に向けて中国や欧米から多くの資金調達に成功しているが、同社は巨大な規模のインフラ建設を経験したことがない。ニカラグア運河の建設費用は当初見込みを大きく超えるはずだとの見方もあり、資金や建設面での実行可能性に疑問が投げ掛けられている。

 また、環境保全に対する懸念もある。運河建設とその運用は、中米最大の淡水湖で、かつ水源でもあるニカラグア湖の貴重な生態系を破壊する恐れや、運河を切り開く際に、運河沿いに住む先住民族の生活様式に変化を与える可能性が、環境問題の専門家などから指摘されている。オルテガ大統領とHKNDは環境に十分配慮した開発を行うと言明しているが、環境に与える影響の調査が終わらないうちにオルテガ大統領が、運河建設を了承したとの批判も出ている。

 運河建設に関して、パナマでは拡張工事の際に国民投票で拡張工事の可否を決めたが、ニカラグアでは、そういった国民的総意を得るためのプロセスを通過しておらず、世論や環境への配慮を含めて若干強引とも言われる運河建設計画が進む中で、ニカラグア運河建設には、「ポスト・パナマックス時代」への期待も含めて注目が集まっている。

(サンパウロ・綾村 悟)