「和紙」文化遺産、価値を再認識し需要高めよう
国連教育科学文化機関(ユネスコ)が、日本政府が提案していた「和紙 日本の手漉(てすき)和紙技術」を無形文化遺産に登録した。我々日本人が和紙の価値、素晴らしさを再認識し、世界に広める契機としたい。
社会的結び付きも育む
クワ科の樹木、コウゾだけを原料に、手すきによる伝統的な技術、知識、工程が継承されていることが評価された。
ユネスコの政府間委員会はまた、手紙や本のほか、障子やふすまなどインテリアにも幅広く使われていること、そして後継者育成や体験事業を通じ、社会的な結び付きを育んでいることも指摘した。
無形文化遺産となった「和紙」は「細川紙」(埼玉県小川町と東秩父村)、「本美濃紙」(岐阜県美濃市)、「石州半紙」(島根県浜田市)の3件で構成される。このうち石州半紙は2009年に単独で無形文化遺産になっている。政府は当初、本美濃紙の登録を目指したが、石州半紙との類似性を指摘されたため、13年に本美濃紙と細川紙を追加して「和紙」として推薦した。
無形文化遺産登録は、昨年の「和食」に次ぐが、石州半紙を含めたため国内の総件数22件は変わらない。しかし今回、「和紙」として一括して登録されたことによって、和紙全体への再評価のきっかけになることが期待される。
和紙の魅力は、独特の柔らかさ、温かさのある手触り、そして強さにある。それらは日本の風土や伝統の中で育まれてきたものだ。
しかし、和紙や国産原料の生産者は減る一方である。全国手すき和紙連合会によると、1976年には全国で636戸あった手すきの和紙の生産者は、2007年には301戸と半減している。
石州半紙は主に障子紙、書画用紙、本美濃紙は文化財保存修理用紙、細川紙は和本用紙などに使われているが、用途拡大の研究がなされてもいい。和紙の長所と魅力に改めてスポットを当てられた今がチャンスだ。
和紙は国内だけでなく、西洋の絵画の修復にも利用されている。こうしたことは文化財保存の専門家しか知らないことだが、和紙の長所、利用価値を外国人も認識していたことの一例と言える。
新たな用途は、和紙の需要を大きく伸ばす鍵となるだろう。そうなれば、原材料を含め生産も自然に増えるに違いない。
伝統的な紙すき技術は、ある面、経済性を超えた和紙と伝統への愛によって保たれてきた。しかし、技術の継承と世界への発信を考えると、経営の安定も必要だ。
和紙製造は地域おこしの重要な核となり、地方創生をも後押しすることが期待される。
意義大きい伝統継承
中央アジアのウズベキスタンでは、世界的に有名だったにもかかわらず、生産が途絶えていた「サマルカンドペーパー」が復活した。これを支援したのも日本の和紙職人である。
伝統技術の継承が、このような世界的な文化遺産の保存にも貢献していることを考えると、その意義の大きさを改めて認識させられる。
(11月30日付社説)