ウクライナ見捨てたNATO
東欧に小部隊の配備を
緊急部隊は抑止力にならず
オバマ大統領は、米国人、ジェームズ・フォーリーさんが首を切られ殺害された後、最初の記者会見で、シリアの「イスラム国」への対応で戦略を持っていないことを認めて、集まっていた人々を驚かせた。それほどひどいことではなく、しょうがなかったと言った。
愚かにも程がある。オバマ氏は自由世界のリーダーだ。たとえ戦略がなくても、それを公に認めてはいけない。実際になくてもだ。
しかし、全体的な計画を立て、同盟国と協力して空爆を行うには時間がかかる。ブッシュ前大統領は同時多発テロへの反撃に1カ月をかけ、かつてない特殊作戦、北部同盟戦闘計画を立て、100日でタリバン政権を崩壊させた。
オバマ氏が対イスラム国戦略を立てられるかどうかはこれからということになる。しかし、ウクライナについてはすでに戦略がある。過去は見ない、という戦略だ。ここから、8月28日のブリーフィングで衝撃的な発言が出てくる。ロシアの戦車、装甲車、砲、何千人もの兵士が平然と国境を越え、ウクライナに侵攻するのを見て、これまでと変わっていないと言ってのけた。「この数カ月間に起きたことの継続」にすぎないということだ。
さらに、ウクライナの問題は軍事力では解決できないという発言を繰り返した。この問題に関心がなく、行動する気がないことを宣言したようなものだ。軍事力だけによる解決がないのは確かだが、外交による解決が、現実的な軍事バランスの影響を大きく受けることをオバマ氏は分かっていない。
プーチン氏の侵攻は、オバマ氏にとっては目新しいものではないかもしれない。だが、ウクライナにとってはすべてが変わるほど大きな変化だ。ロシアは敗北間近だった。今はウクライナが敗北間近だ。ウクライナが降伏につながる停戦を受け入れるのはそのためだ。
1カ月前、プーチン氏の意を受けた親露派は、包囲され、死にもの狂いだった。だが、ロシアの南東部への侵攻で救われた。ルガンスクとドネツクからウクライナ軍を追い出し、取り戻した。一方でロシアの装甲車両がウクライナ軍を圧倒し、南東部全域のウクライナによる支配が脅かされている。プーチン氏はかつて、2週間でキエフを占領できると豪語した。
プーチン氏はなぜここまでするのか。すでにウクライナを分断、支配し、「ノボロシア(新ロシア)」の再構築を進めている。
オバマ氏は外交的解決を訴え、小火器、対戦車砲、対空ミサイルなどの防衛的兵器の供与すら拒否した。紛れもない侵略を前にオバマ氏が完全な無視を決め込んでいることにウクライナは当惑している。東欧もいら立っている。そのため、オバマ氏はウェールズでの北大西洋条約機構(NATO)首脳会議への出席を改めて約束した。
まずはエストニア。オバマ氏にとって最初のレッドラインとなりそうだ。タリンの人々は確かに今夜はゆっくりと眠ることができる。オバマ氏が支持を明確にしているからだ。
オバマ氏の約束を裏付けるために、NATOは、有事、つまりロシアの侵攻時にバルト諸国、ポーランドに事前に設けられた基地に派遣する約4000人の緊急部隊の創設をアピールしている。
欧州の緊急部隊の話は何十年も前から聞いてきたが、これまで何もできていない。
さらに、創設されたとしても、中途半端で無力だ。最初の兆候で、兵士を集め、派遣し、輸送し、武装させる。実際の派遣には、NATOが直ちに承認することが必要だ。しかし、NATOの意思決定が遅く、ばらばらであることは有名だ。ウクライナ問題を見れば一目瞭然だろう。緊急部隊が到着するころには、ロシアはまだ誰もいない基地を支配していることだろう。
ウェールズ首脳会議で注目すべきは、NATOが何をしなかったかという点だ。ロシアへの強力な抑止力になる、バルト諸国とポーランドへの恒久的基地の設置すら決められなかった。これがあればロシアに対する防御力となる。防御のための小さな軍事力を置いておけば、即効力を発揮できる。ロシアの指導者は、軍を侵攻させれば直ちにNATO軍と遭遇し、欧米との戦争になることは間違いないと考えるからだ。
この方法で半世紀にわたる冷戦期間中、欧州の平和が保たれてきた。西ドイツに米軍が駐留していても、ロシアの侵攻は止められなかったかもしれない。しかし、ロシアが攻撃すれば直ちに米国と戦争になる。ロシアとしては容認できない事態だ。
この方法で、現在の韓半島の平静は保たれている。北朝鮮の指導者がいかに無謀であっても、非武装地帯を越えることはできない。そこには米軍がいて、米国との戦争の引き金となるからだ。
これが抑止力というものだ。緊急部隊ではこれはできない。それでも、ウェールズ首脳会議では勝利が宣言される。現在のウクライナがそうであるように、エストニア、ポーランドにとってもこれは、中途半端を絵に描いたような一人の男が率いる同盟が、やる気がないことを宣言したと映ることだろう。(9月5日)