「慰安婦」で他紙もとする朝日に一緒にされては迷惑と反撃した読売

◆大誤報の矮小化狙う

 朝日新聞(5日朝刊、以下各紙も朝刊)は、慰安婦問題をめぐる過去の同社報道で誤報などの疑義が指摘されてきたことについて、ようやく誤報があったと認め一部記事を取り消す特集を掲載した。各紙は「慰安婦報道/朝日32年後の撤回/強制連行証言は『虚偽』」(読売6日)などと報じ、これに12日の小欄では増記代司氏が論考した。朝日の慰安婦問題をめぐる特集について重ねてウォッチしたい。

 「慰安婦問題を考える(上)」のテーマを掲げた見開き2㌻の朝日の特集は、あくまで「慰安婦報道に寄せられた様々な疑問の声にこたえるために」これまでの報道を点検し「その結果を読者の皆様に報告」するというもの。「『済州島で連行』証言」(吉田氏証言で以下、証言)、「『挺身隊』との混同」など六つの項目を立てて読者の疑問に答える体裁をとり、その中で証言の虚偽を認めて記事を取り消し、まったく別であった慰安婦と「女子勤労挺身(ていしん)隊」とを誤って混同した記事があったことを認めた。

 ここでは朝日の特集が証言などについて「虚偽だと判断し、記事を取り消します」などと報告するだけで、日韓関係をこじらすもととなった歴史的大誤報問題の矮小(わいしょう)化を図ったことの指摘をしたい。

 問題の矮小化を図ろうとする朝日の意図は、特集で立てた6項目とは別に“最後っ屁(ぺ)”のように1項目を立てた「他紙の報道は」の内容に顕(あら)わである。そこでは「他の新聞社は慰安婦問題をどう報じてきたのか」と居直り、読売、毎日、産経の報道を点検。3紙それぞれに取り上げた記事についての現時点の認識を尋ねた。〈他紙も吉田氏証言を報じたではないか〉と言いたいらしく、他紙も同罪と巻き込み、問題の矮小化を狙ったのであろう。

◆朝日に再検証を迫る

 朝日の取材に毎日と産経は丁寧にコメントしたが、読売は無視した。読売は〈誤報記事を何十年も放置した無責任の始末は自分でつけよ。ヨソを巻き込もうとは不届き、迷惑千万だ〉とでも言いたかったのであろう。

 読売の反応は素早かった。朝日の論調と激突することの多い産経も目を見張るような朝日批判を翌6日に大々的に展開した。解説記事「誤った歴史認識/世界拡散を招く」では「虚偽に基づく報道が、どんな結果を生んだのか。事実を最も重視すべき報道機関として、朝日には更なる自己検証が求められる」と特集に厳しい“落第”評価を突きつけた。

 社説では、他紙も同様の報道をしたとする朝日に「読売新聞にも当初、女子挺身隊や吉田氏に関して、誤った記事を掲載した例があった。だが、90年代後半以降は、社説などを通じて誤りを正している」と切り返した。〈長年、誤報を頬かむりして正してこなかった朝日の姿勢とは違う。一緒にされては迷惑だ〉と言いたいに違いない。

 さらに1㌻全面特集「朝日慰安婦報道要旨と問題点」では、朝日の特集6項目について項目ごとに問題点を指摘。大阪大教授・坂元一哉氏が「この報道は日本の国益を少なからず傷つける報道だったと思う」「過ちを認めるのになぜここまで時間がかかったのか。責任ある報道機関として、二重の反省と検証が必要になるだろう」と不十分な特集にレッドカードを出し、朝日に誤報の再検証を迫っている。

 朝日が読売に求めた問題認識については「報道機関による自らの検証作業と、他の報道機関に過去の報道について見解を求めることとはまったく別の問題であるため、回答を控えました」と無回答の理由を示した。

 読売は迅速かつ鮮やかな反撃を行った。新聞の言論戦は朝日vs産経で行われることが多いが、今回は読売が朝日の挑発を真っ向から受けた。新聞の活発な言論戦は歓迎である。

◆報道修正した産・毎

 なお、朝日が他紙も報じたとしたことに、産経は「当該記事では、吉田清治氏の証言と行動を紹介するとともに、その信憑(しんぴょう)性に疑問の声があることを指摘しました。その後、取材や学者の調査を受け、証言は『虚構』『作り話』であると報じています」(6日)、「(証言取り消しの)他の論点に関しては自己正当化や責任転嫁、他紙の報道をあげつらう姿勢が目立つ」(8日)と回答や批判をした。

 毎日は「吉田証言には信ぴょう性に疑義があるとの見方が専門家の間で強まり、それ(92年8月13日)以降は報じていない」(7日社説)と説明した。いずれも騙(だま)されたまま誤報を続けた朝日とは違うことを明確にしたのである。

(堀本和博)