危険ドラッグ、名称変更を根絶への第一歩に


 脱法ドラッグに代わる新しい呼称は「危険ドラッグ」に決まった。覚醒剤や大麻と同様の幻覚・興奮作用がある薬物であるにもかかわらず、「脱法」という表現が危険性を誤認させる恐れがあるため、警察庁などが代替案を公募していた。

 今回の名称変更を根絶への第一歩としたい。

 取り締まり強化の方針

 新呼称は、幅広い世代が危険性の高い薬物だと理解できるものという要件で募集され、約2万件の案が寄せられた。危険ドラッグのほかに「準麻薬」「廃人ドラッグ」「危険薬物」「破滅ドラッグ」などの案があった。

 危険ドラッグは、麻薬取締法や薬事法で違法とされた物質を含む薬物と、これらと似た化学構造を持ちながら規制対象となっていない薬物の総称だ。「合法ハーブ」や「アロマ」などと称して販売され、それほど問題がないと誤解されやすい。

 しかし、乱用すると意識障害などが生じるほか、筋肉の細胞が壊れる深刻な合併症を引き起こし、多臓器不全で死亡するケースもある。

 使った経験のある人は、全国で約40万人に上るとされる。6月には東京・池袋で危険ドラッグを吸引した男が車を暴走させ、8人を死傷させる事件が起きた。また、危険ドラッグを所持していた容疑で元神奈川県議や警官が逮捕されるなど大きな社会問題となっている。

 厚生労働省は昨年3月、薬事法で規制された指定薬物と成分構造が類似していれば一括して規制の対象にできる「包括指定」を導入した。今年4月には指定薬物の単純所持や購入、使用などを禁じた改正薬事法が施行された。

 だが、法の網にかからない新種が次々と登場しているのが現状だ。池袋の暴走事故でも、男が使った危険ドラッグに含まれる成分は薬事法の規制外だった。規制を逃れるために成分構造が複雑で危険度が一段と高いものが開発され、中毒者の治療に当たる医師も対応できなくなりつつあるという。

 いたちごっこに歯止めをかけるため、厚労省は指定薬物に定められる前の危険ドラッグも「無承認医薬品」に該当するとして取り締まる方針だ。指定薬物の疑いがある物品については、販売業者に検査を受けるように命じ、結果が出るまで販売を禁止する。

 危険ドラッグはインターネットを通じても販売されている。改正薬事法施行を受け、警視庁は専従班を設けてネット上の売買を監視しているが、取り締まりを強化する必要がある。

 また、中国などから規制の対象になっていない原料が密輸され、日本国内で危険ドラッグが密造されるケースが増えている。対策を講じ、危険な物質を締め出さなければならない。

 危険性の周知徹底を

 厚労省の研究班によると、危険ドラッグの使用経験者の平均年齢は他の薬物よりも若く、その4割近くは危険性を認識していなかった。

 名称変更を機に、政府は危険性を周知徹底すべきだ。学校教育を通じて、子供たちに恐ろしさを伝えていく取り組みも求められよう。

(7月31日付社説)