“新生JAXA”の背後の宇宙開発の課題も言及すべきサンデー毎日

◆今夏「宇宙博」が熱い

 日本の航空宇宙開発政策を担う研究・開発機関であるJAXA(宇宙航空研究開発機構)と米国のNASAが共同で宇宙関連施設などを展示した「宇宙博」が7月19日から千葉市の幕張メッセで始まった。今夏、全国的に最も注目されるイベントの一つだが、サンデー毎日(7月27日号)はその見所などを探っている。題して「JAXAとNASAが初コラボ この夏は『宇宙』が熱い!」。

 記事によると「世界を巡回しているNASA(アメリカ航空宇宙局)公認の展覧会『NASA A HUMAN ADVENTURE』をアジアで初めて開催し、約300点の実物資料や実物大モデルが展示される。また、火星探査車の実物大モデルは米国外は初展示となる」。米国発宇宙関連の展示として思い出されるのは、1970年に開かれた大阪万博での月の石やアポロ宇宙船だが、今回もやはり米国の宇宙開発力の高さを誇示するNASA一流のPRを兼ねている。

 日本からは「きぼう」を実物大で再現し体験できるほか、「はやぶさ」が持ち帰った小惑星イトカワの微粒子サンプルの実物などが展示される。「今年度中には『はやぶさ2』も打ち上げの予定。2015年以降、日本人宇宙飛行士の活動も予定されている。『宇宙博』などを見学して、宇宙への思いを熱くしてみては。」と説いている。

 JAXAは2003年、日本の航空宇宙3機関が統合されて発足した宇宙研究・開発機関。きぼうやはやぶさ開発の顛末(てんまつ)は映画の題材ともなり、その成功物語は感動的だ。ただJAXAの前身の宇宙事業団NASDAを取材してきた筆者にとっては別な意味で感慨深い。

◆低予算開発の行方は

 2000年前後にはわが国の宇宙開発関連予算は削られ、開発の意義も見失われがちで、その上、H2(H2A開発までのロケット)失敗で技術陣の信頼失墜も甚だしかった。当時、NASDAのある研究センター長に「上から『オリンピックだって、いくら選手団を送り込んでもメダルを一つも取れないのなら意味はない』と言われた」と愚痴を聞かされたのを思い出す。

 「日本にとって宇宙開発はなぜ必要なのか」。わが国は中国などと違って民主主義国であるから、世論の動向が開発の度合い、方向性を決めかねない。国防の視点から、あるいは国威発揚という目的からも、その重要性を絶えずアピールしながら、国民の認識と支持を定着させる努力をしないといけない。こういった問題意識は研究センター長レベルでも十分持っていた。

 その後、わが国は衛星打ち上げビジネスの方に傾斜し、国際協力の点から国際宇宙ステーションのプロジェクトに積極的に参加するようシフトしていった。JAXAは民間活力の利用、低予算宇宙開発に力を入れ、今のところ成功している。NASDA時代の厳しい試練をかいくぐってきた結果である。

 記事ではここらへんのところを「昨年、発足10年目を迎えたJAXAは“新生JAXA”を宣言。日本の科学技術行政の変化、衛星情報の利用拡大、中国やインドなど新興国の台頭により、その役割をより多様化し、社会への価値提供を実現していくことを示した」とサラリと記しているが、この間の事情をもっと強調してもよかった。

 特に、中国はこの間、有人宇宙船を発射させ国威発揚と国防力強化を狙っており、世界的に宇宙戦略の時代の突入の感が強い。日本は今の技術でも米国のアポロ打ち上げ時より一桁ぐらい低い費用で月に行くことも可能なレベルだが、その方向はとっていない。それらのことがわが国の今後の宇宙開発にどう影響するか。宇宙開発の課題、実情などを突っ込んで知らすべきだ。

◆原子力を見直す機会

 ほかに記事では夏休み期間の見学先の目玉の一つとして、「高エネルギー加速器研究機構 常設展示 KEKコミュニケーションプラザ」(茨城県つくば市)を挙げている。ここは素粒子物理学および原子核物理学を研究する基礎物理研究所だが、「電子と陽電子を超高速で衝突させ測定する装置」などを見学できるという。

 日本人はややもすると原子力をエネルギー開発の面から論じ、原子力開発の是非を問うことが多い。KEK見学は、豊かな人類社会をその根幹で支える総合技術としての原子力について学ぶ機会である。記事でもその一言を付け加えてほしかった。

(片上晴彦)