兵庫県議会の政務活動費問題から地方政治の課題を追った「新報道」

◆世論招いた野々村氏

 7月に入りテレビの報道番組は騒々しかった。1日の集団的自衛権行使容認の閣議決定に反対する官邸周辺デモの放送もあったが、同じ日に行われた野々村竜太郎兵庫県会議員(11日辞職)が「この世の中をー、わぁぁ~!」と絶叫(号泣)した記者会見があった。

 本来、重大な閣議決定と地方議会議員の会見の注目度は比較にならない。ところが、インターネットの動画サイトで野々村氏の記者会見は海外まで拡散し、日本の政治家のレベルを嘲笑う書き込みがあふれた。このネットでの反響をテレビが補足するに従い、「様子がおかしい」などの出演者のコメントとともに、「号泣」場面が繰り返されるようになった。

 これが、日頃は注目されず、盲点となっていた地方議会の悪(あ)しき慣例に衆目を集める客寄せの叫びとなった。

 テレビの扱いも当初は興味本位だった。日本語を解するわけではない海外の人々が反応したのも、政治家が泣きわめく異常ぶりにだろう。もっとも国内でも言っている言葉も捉えにくいので、何のための記者会見かというより「号泣」が話題になり、「政治家の資質の低下」が問題視されていた。

 日曜朝の報道番組ではフジテレビ「新報道2001」が6日の放送で「資質」の脈絡で野々村氏の政務活動費にメスを当て、年195回約300万円の日帰り出張の出張先とされた城崎温泉、城崎こども園、高齢者施設などを取材し、関係者から「来ていない」と証言を得るなど、不自然さを抉っていた。

 さらに、13日放送になると野々村氏以外の地方議会問題に焦点を当てていた。野々村氏は政務活動費の使途について説明責任を果たさないまま県議を辞職。県議会側は野々村氏を虚偽公文書作成・同行使の疑いで刑事告発したが、要は野々村氏だけではなく地方政治の問題と見られるようになったのだ。

◆「学芸会」とまで酷評

 番組では県議会事務局、県議、元県議らの取材から、政務活動費「手引書」の交通費の例外規定によって野々村氏が領収書のない出張費を計上し、これに事務局側は異常だと何度も問い合わせても、「必要事項は書いてある」と同氏が押し通した経緯を指摘。同様なケースで事務局職員を怒鳴りつけていた他の県議の例など元県議の証言も拾い、「野々村さんだけじゃなくて他の議員も同様だと思う」との現職県議の発言を得ていた。

 また、東京都議会で女性議員へのセクハラやじが問題になったが、都議らの証言からやじが横行する背景について、質問から答弁まで都庁の担当局の役人が台本を作成する実態を指摘。予め事前調整した質問・答弁の台本があるので、やじがやかましくても議事進行するという。これにスタジオ出演していた前鳥取県知事で慶應大学教授の片岡善博氏は、自身が答弁に立った鳥取県議会を含め地方議会を「学芸会」と酷評していた。

 議員自らが地方行政の問題点を探し質問するための政務活動費ではなかったのか? にもかかわらず東京都議会の政務活動費は月60万円、兵庫県議会は同50万円であり、大都市を抱える裕福な自治体ほど監視の目が必要であることを思わせた。

 片や、スタジオ出演していた北海道夕張市の鈴木直道市長は、財政破綻した夕張市の市議会は「18人いたが今9人、報酬も40%削減し、政務活動費はない」と述べ、自治体格差の開きを感じる。こうなると地方自治体同士で互助関係を築き、例えば、兵庫県議会の政務活動費の一部を夕張市議会に寄付してもいいのではないかとさえ思える。

◆統一地方選の焦点に

 同番組でスタジオ出演していた経営者からは、民間経営の視点から議員報酬と分けた政務活動費、議員活動の評価への疑問もあった。ともあれ、野々村氏の異常な記者会見で地方政治の問題に世論の関心を引き寄せることになった点は異口同音の評価である。

 出演者の柴山昌彦前総務副大臣は「一般の人たちが興味を持てない議会になるとどんどん興味が薄れ、いろいろな不正や問題ができる悪循環が地方議会にあったのではないか」と述べていたが、警察による野々村氏への捜索が18日に始まり、同番組などテレビはじめマスコミの追跡が続くだろう。

 来年春には統一地方選挙が行われることから地方議会改革、地方自治体改革に有権者が興味を持ち、地方選の焦点とされていくべきだ。

(窪田伸雄)