警察はストーカー相談への対応検証を


 東京都三鷹市の女子高生殺害事件が起きたのは、被害者が容疑者のストーカー行為について警察に相談した当日だった。

 生かされなかった教訓

 相談を受けた三鷹署では、その場で容疑者の携帯電話に3回電話をかけたが、つながらなかった。署は緊急保護などの措置を取らずに帰宅させた。

 しかし、この時点で被害者は「殺すぞ」と書かれた脅迫メールを送り付けられたり、自宅のそばで待ち伏せされたりしていた。警察の対応には緊張感が欠けていると言わざるを得ない。しかも、警察は凶行直前にも被害者の帰宅を電話で確認しただけだった。

 被害者と容疑者はインターネットサイトの「フェイスブック」を通じて知り合ったが、被害者は昨年、容疑者に別れ話を切り出し、今年6月ごろから着信を拒否するなど接触を拒むようになった。容疑者は復縁の望みを断たれた恨みから事件を起こしたとみられる。

 この3日に改正ストーカー規制法が施行されたが、相談に迅速に対応するというのが改正の趣旨だ。欧米では警察に相談があった時点で、すぐ自宅などに出動する仕組みが整っている。容疑者は「事件当日昼すぎに被害者宅に侵入し、クローゼットの中で待ち伏せして襲った」と供述している。帰宅時間に合わせて警察官を派遣することはできなかったのか。

 被害者は通っている高校にもストーカー被害を訴えていた。担任が杉並署に対応を相談したところ、同署は被害が自宅近くで起きていることを確認した上で、被害者宅に近い三鷹署に行くよう勧めたという。しかし、この件に関して杉並署から三鷹署への連絡はなかった。

 2011年12月に長崎県西海市で起きたストーカー殺人事件では、千葉、長崎、三重の3県警の連携が取れていなかった。今回の事件での警察の対応を見る限り、苦い教訓は生かされなかったと言える。

 過去にストーカー殺人が起きるたびに、警察の問題点が浮き彫りにされてきた。昨年11月に神奈川県逗子市で女性が刺殺された事件では、容疑者が同年6月に脅迫容疑で逮捕された際、被害者の住所などを告げたことが殺人につながったと指摘されている。

 また、脅迫罪で執行猶予付き有罪判決を受け、保護観察処分中だった容疑者による大量メール送信を、担当の東京保護観察所が把握していなかったことも判明した。送信を把握していた県警、検察と観察所が情報を共有していれば、執行猶予の取り消しなどで殺害を防げた可能性がある。

 今回の事件をめぐって、菅義偉官房長官は警察に対して「(ストーカー規制)法改正にもかかわらずこのような結果になったことを踏まえ、一層的確に対処し、被害者の(安全)確保ができるよう求めたい」と述べた。警察は被害者を守ることができなかったか徹底検証すべきだ。

加害者への医療措置も

 もちろん、ストーカー事件を防ぐには社会全体で対策を考えなければならない。加害者が自分の衝動を抑えられない場合、医療措置も求められる。

(10月11日付社説)