広がるスマホ依存症、中高生52万人に疑い
葛藤なく治療難しい
月刊「文藝春秋」3月号は、独立行政法人国立病院機構久里浜医療センター院長の樋口進の論考「中高生52万人を蝕む『スマホ』亡国論」を掲載した。最新号ではないが、新年度を前に、わが子にスマートフォン(スマホ)を買い与える保護者が少なくないだろうから、論考の内容を紹介しながら、子供にスマホを与えることの危険性について警鐘を鳴らしたい 。
論考のテーマにもあるように、樋口が加わった厚生労働省の研究班の調査では、全国の中高生52万人にネット依存が疑われている。この依存症はかなり前から若者の間で深刻化しているが、それに拍車を掛けたのがスマホの普及だ 。
樋口の論考では、スマホ所有率は高校生56%となっているが、これは昨年のデータ。最新の内閣府の調査では、82%を超えており、中高生52万人という数字もさらに多くなっている可能性が高い 。
この情報ツールによるネット依存症はパソコンの比ではない。後者の場合は持ち歩くことはできないが、「スマホならば、通学途中、ベッドやトイレ、どこでもネットの世界に入ってゆける。その分、依存への転落が早い」のだ。同センターの「ネット依存専門外来」は今や7カ月待ちの状況だそうだ 。
子供にせがまれてスマホを買い与えたはいいが、無料通信アプリ「LINE」やオンラインゲームなどに夢中になって、学校に行かないばかりか、身体を壊す重症患者も少なくない 。
「子供がスマホに夢中になって困る」という保護者の嘆きはよく耳にするが、わが子が依存症かどうかをどこで判断すればいいか。樋口によると、通常自分の意志でコントロールできなくなった状態が「依存」で、睡眠不足、不登校など「日常生活や健康状態への悪影響」が表れたら、もうスマホ依存症と考えていい。取り上げたら、半狂乱になることもある 。
アルコールや薬物などさまざまある依存症の中でも、スマホは治療が難しい病気だ。なぜなら、他の依存症患者には「止(や)めなければいけない」との「葛藤(かっとう)」があり、それが「治療に向かう力」にもなる。しかし、スマホ依存の中高生にはそれが感じられない。その原因について、樋口は「彼らが精神的に未発達」で「現実世界での経験が不足している分、ネット上のバーチャルなアイデンティティに固執する傾向が強い」からだという 。
しかも、治療法が確立していない病気でもあり、そこから抜け出すのは容易ではない。このため、精神がまだ未発達な子供には、スマホを持たせないのがベストということになるが、友人とつながるためのツールだけに、それを断ち切らせることができる家庭はどうしても少なくなってしまう 。
新しい技術には、若い世代はすぐ飛びつく。大人が手をこまぬいているうちに、スマホは中高生の間にどんどん普及し、その心までむしばみ始めている。樋口は、放置すれば「国力の低下すら招く」と警告する。家庭には手の余る病気であり、治療する医療機関もまだ少ない。国の早急な対応が求められる。
編集委員 森田 清策