元左官の夫と長男を失った妻、「返してほしい」
建設石綿4訴訟原告らが切望、命あるうち「全員救済を」
建設アスベスト(石綿)4訴訟では、約500人の元労働者や遺族が原告となった。提訴から10年以上がたち、石綿関連疾患を患う元労働者の約7割が既に死亡。原告らは「全員の救済を」と切望している。「もうもうとほこりが舞い、それを丸ごと吸っていた」。横浜訴訟の原告団団長、平田岩男さん(80)は年約20カ所の建設現場を回り、左官職人として50年間働いた。壁を削ると白い粉が舞い、汗と混じって布マスクは真っ黒になった。建材に石綿が含まれているかは意識していなかった。
2006年3月、せきが止まらなくなった。レントゲン写真の肺は真っ白で、石綿肺と診断された。「生涯続けたい天職」だった仕事は辞めざるを得ず、個人事業主の「一人親方」だったため労災認定されるまで半年間は収入も途絶えた。
3年前に転倒し言葉が思うように出なくなった。期待と不安の混ざる気持ちで、横浜市の自宅で判決を待つ。妻喜代子さん(77)は「提訴からずっと命あるうちに解決したいと言っていた。全面勝訴を」と力を込めた。
東京訴訟の原告、大坂春子さん(77)埼玉県川越市は2月、最高裁で開かれた弁論で「夫と息子を返してほしい」と訴えた。
大坂さんは27年間、夫金雄さんと共に大工として一戸建て住宅の建設現場で働いた。長男誠さんも両親の背中を追って大工になった。
03年1月、金雄さんは中皮腫と告げられた。やせ細り、体中の痛みに苦しみながら同年5月に65歳で亡くなった。大坂さんは誇りを持って仕事をした夫に、建材の石綿が原因であることは隠し通した。
「おやじの代わりに頑張る」と大工を続けた誠さんも13年に中皮腫と診断され、約1年後に46歳で死亡。大坂さんの肺にも白い影が写る。
「夫が苦しみ抜いて亡くなったこと。企業が作った建材で被害者がたくさん出たこと」を伝えたいと法廷に立った。全国で続く同種訴訟や他の被害者のためにも、国とメーカーの責任を認めてほしいと願っている。