ボリビアが原子炉建設計画推進を発表

 南米ボリビアのモラレス大統領は22日、議会演説を通じて、南米で3カ国目となる原子炉建設の計画を発表した。モラレス大統領は、ベネズエラの故チャベス大統領と同様、反米左派の首脳として知られている。原子力開発はあくまでも「平和利用が目的」だと主張、「ボリビアが全人類が共有すべき(原子力)技術から除外されるわけにはいかない」と強調した。
(サンパウロ・綾村 悟)

対米依存脱却、資源輸出の切り札に

仏とアルゼンチンが協力へ

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イランを公式訪問しテヘランでの歓迎式典でアハマディネジャド・イラン大統領(左=当時)と握手するボリビアのモラレス大統領=2010年10月26日(UPI)

 22日の議会演説は、モラレス政権が2013年度を統括する内容のもの。ボリビア政府は昨年10月、既に原子力計画推進の概要を明らかにしていたが、モラレス大統領は、議会演説の中で、原子炉建設を国の最重要政策とすると言明、近く原子力委員会を設立する方針を示した。

 ボリビアでは、2010年にイランの協力を得て原子力発電所を建設する計画が立てられたことがある。同計画には、米政府から計画を見直すようにとの強い要請があったが、ボリビア政府は「ボリビアは米政府の所有物ではない」として要請を拒否していた。

 ところが、2011年3月に福島第一原子力発電所事故が発生すると、世界的に原子力発電の見直し機運が高まる中で、ボリビア政府も同年4月に原子力発電所建設の凍結を発表、ブラジルやベネズエラなどの南米各国も原子力政策の見直しを迫られた。

 南米最大の経済大国でもあるブラジルは、アルゼンチンと並んで原子力発電所を保有している数少ない南米諸国の一つ。総発電量の8割近くを水力発電に頼っているブラジルは、経済成長に合わせて増加する一方の国内電力消費を受けて、安定的な電力確保が急務となっていた。

 同国では、ルラ前政権時に最大8基の原子炉建設を計画していたが、現在は2018年に完成するアングラ3号基を除いて原子炉の新規導入計画はない。ただし、ブラジルは昨年、福島の原発事故以降途絶えていた日本との原子力協定交渉を再開させており、将来的には日本企業による原発建設受注の可能性もある。

 さらに、ブラジルは、同国沖合にある深海油田などの保護を理由にブラジル製原子炉を使った原潜導入を発表、フランスの協力を得て2023年を目標に原子力潜水艦の配備を計画している。実現すれば、ブラジルはインドに次ぐ世界7カ国目の原潜保有国になる。 一方、南米3カ国目の原子力発電所保有を目指すボリビアだが、同国の核開発をめぐっては、イスラエル外務省が2009年、諜報機関から入手した情報として、ボリビアとベネズエラがイランに対してウランを提供していた可能性があると伝えている。

 ボリビア政府は、同国内にウラン鉱脈があり、試掘を行ったことは認めたが、イランへのウラン提供は完全否定した。今回発表されたボリビアの原子炉建設計画では、モラレス大統領は、原子炉建設に向けて、フランスとアルゼンチンの協力を得る予定だと説明した。アルゼンチンとボリビアは昨年5月に原子力協定を結んでいる。

 ボリビアは現在、原子力発電に必要とされる十分な量のウランを保有していないとみられるが、同国南部のタリハ県やポトシ県などには、南米でも有数とされる豊富な放射性鉱物資源が存在すると言われている。また、ボリビアは世界最大のリチウム資源保有国としても知られる。リチウムは、バッテリーの生産などに欠かせない資源だが、一方では特定のリチウムが核兵器の小型化などに利用できることも知られている。米政府などは、ボリビアのリチウム資源をめぐる動きを注視しているとされる。

 また、原子炉建設という政策を前面に打ち出したモラレス大統領は、今年10月の大統領選挙で3選を目指している。反米左派として、経済や政治など各面での米国からの脱却と独立という命題を掲げてきた同大統領にとって、ボリビアが原子力技術を保有することは、同国が資源輸出国として発展していく上でも重要な政策となっている。

 ボリビアは、1962年のキューバ危機を教訓とした核兵器禁止条約として知られるラテンアメリカ及びカリブ海域核兵器禁止条約(トラテロルコ条約)の国連議案提出国でもある。それだけに、同国の原子力政策には今後、過去のイランとの関係も含めて、関係各国からさらなる透明性を求められるものとみられる。