日本学術会議の権威が失墜
共産党の浸透が明るみに 保守論壇に解散論が広がる
臨時国会の焦点の一つとなっている日本学術会議の任命拒否問題。28日の衆院本会議で、野党側から「推薦された方を任命しないのは明らかに違法だ」と問われた菅義偉首相は、「任命の理由は人事に関することで、お答えを差し控える」としながら「(人選は)民間出身者や若手が少なく出身や大学に偏りが見られる」として、見直しの必要性を強調した。
これに対して、学術会議側は地域偏在の解消や若手の登用などに取り組んでいると反論しているが、これに納得する国民はどれほどいるのだろうか。日ごろ、情報の取得を、左派の新聞・テレビだけに頼っている人ならいざ知らず、特にネット情報を見る機会の多い層では、学術会議が共産党とそのシンパによって長年牛耳られてきており、その偏りの是正こそがこの問題の本丸だという認識が広がっている。
そればかりか、学術会議に対する共産党の浸透の実態を伝え、「学術会議は解散せよ」との主張が勢いを増している。このため、学術会議が「我が国の人文・社会科学、生命科学、理学・工学の全分野の約87万人の科学者を内外に代表する機関」と自負する団体の権威はもう失墜しているのである。
月刊誌12月号で、すでに店頭に並ぶのは保守派の「WiLL」「Hanada」「正論」の3誌で、全て学術会議についての大特集を組んでいる。順に「赤い巨塔 日本学術会議という病」「『日本学術会議』と中国共産党」「学術会議を廃止せよ」と銘打っている。これを見ただけで、学術会議問題への各誌のスタンスが分かる。
そこに論考を寄せている櫻井よしこ、岩田温(あつし)をはじめとした保守派の論客はすでにネットで積極的に情報発信にしている。その結果、ネット・月刊誌を中心にした学術会議批判派と、左派の既存メディアを舞台にした菅首相批判派との対立構造も生まれている。
さて、学術会議と日本共産党の関係だ。今回、学術会議が推薦した105人のうち、菅首相によって6人が任命拒否されたわけだが、その6人について、筑波大学システム情報系准教授の掛谷英紀は「安全保障関連法に反対する学者の会」(学者の会)の呼び掛け人になるなど「学者の肩書を使って左翼的な政治活動を積極的にしてきたことで知られる」と述べている(「『学者の全人代』こそ学問の自由に介入」=「正論」)。
一方、この6人のうち、3人は日本共産党系として知られる「民主主義科学者協会法律部会」の理事などを務めていた経歴を持つことから、自民党政権に批判的な学者が任命拒否されたというのが左派メディアや学術会議関係者の見立てだ。
だが、前出の櫻井は「任命された九十九人のうちの二十数人も共産党に非常に近い、共産党の政策に親和性を抱いているという評価があります」(「学術会議の暗部」=「Hanada」)と断定は避けながらも、学術会議への共産党の浸透ぶりを指摘。掛谷も6人のほかにも、「『学者の会』に署名した学者が今回も多数任命されており、政府に批判的な人間を全員外すといった極端なことは行われていない」と、左派の見立てを否定する。
だとすれば、政権に批判的な学者が任命拒否されたというよりも、共産党シンパや左派の学者が多く占める学術会議の偏りを是正するために、菅首相は任命拒否したというのが実情ではないのか。
もう少し、共産党との関係を見てみよう。櫻井は、2011年に学術会議会長になった「市民連合」の呼び掛け人、広渡清吾(ひろわたりせいご)(東京大学名誉教授で、民主主義科学者協会法律部会理事も歴任)の政治活動を例に挙げた。昨年の衆院大阪12区補選で、共産系候補の応援演説で、次のように語ったという。
「市民連合の目的は、市民と野党の共同の旗を掲げて安倍政治を倒すことにあります。この間、その活動のなかで最も誠実に、私たちと一緒にたたかって下さったのが日本共産党です」
会長を辞めたあとだから、政治活動は個人の自由である。しかし、学者の政治活動について批判する掛谷は学者にも政治活動する権利はあるが、仲間を組織して政治活動する時点で、「彼らは政治屋である。政治屋に成り下がってしまった以上、政治家と同じ土俵の上にいるのであるから、介入するなという主張は正当性を失う」と、鋭く切り込んでいる。さらに「真理を見いだし、それを世に知らしめた結果、政治に影響が及ぶことと、学術的真理とは関係なく特定の政治目的のために運動することとは明確に区別できる」と、これまた刮目(かつもく)すべき主張を展開する。
菅首相の任命拒否がきっかけで浮上した日本学術会議問題。共産党とそのシンパの浸透を炙り出そうという編集者の熱意が伝わる保守系月刊誌だが、これから発行される「中央公論」「Voice」「潮」がどのような切り口でこの問題に取り組むのか、楽しみだ。(敬称略)
編集委員 森田 清策