日本と国際機関存在感向上で世界に貢献を
日本人が国際機関のトップを含む重要ポストに就任する機会が減っている。
政府は国家安全保障局(NSS)に4月に新設した経済班を中心に、国際的に活躍できる人材育成を戦略的に進めるための体制を強化する。国際機関における日本の存在感向上につなげてほしい。
影響力を強める中国
国際機関トップを務めた日本人では、松浦晃一郎・国連教育科学文化機関(ユネスコ)事務局長(1999~2009年)、在任中に死去した天野之弥・国際原子力機関(IAEA)事務局長(09~19年)が知られる。
松浦氏は、縁故人事や不透明経理が横行していたユネスコの組織改革に着手。脱退していた米国を03年に復帰させるなどの功績を残した。天野氏はイラン核問題や核の平和利用推進などに取り組んだ。このほか、国連難民高等弁務官の故緒方貞子氏や、国連事務総長特別代表としてカンボジア和平に尽力した明石康氏ら国際機関で活躍した日本人は少なくない。
だが、現在では15ある国連専門機関でトップを務める日本人はいない。一方、国際的影響力を強める中国は、国連食糧農業機関(FAO)など四つの国連専門機関のトップを占める。アフリカなどの発展途上国に対して資金力に物を言わせた援助外交を展開し、選挙での多数派工作が奏功したためだ。
共産党一党独裁体制を堅持する中国は、対外的にも自国の利益のために国際的なルールや秩序を無視する姿勢が目立つ。中国人が国際機関トップの座に就いた場合、公正な運営が行われるか懸念される。
中国の露骨な国益追求の姿勢は、18年に孟宏偉・国際刑事警察機構(ICPO)総裁(当時)を収賄容疑で拘束したことに表れているとの見方もある。孟氏の失脚の理由は、ICPOがウイグル人権活動家に対するテロ容疑の国際指名手配書を撤回したことが、中国の習近平国家主席の不興を買ったためとも言われている。
中国の影響力は、中国人がトップではない国際機関にも拡大している。世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、新型コロナウイルス感染拡大への対策の遅れを批判されたが、背景には母国エチオピアが中国から多額の経済支援を受けていることがある。情報隠しで感染を広げた中国への過剰な配慮が適切な措置を妨げたと言える。
新型コロナでは全世界で約50万人が亡くなっている。国際機関が特定の国家の利益を重んじ、世界に甚大な損害を与えることがあってはならない。
このことを踏まえれば、国際機関のトップを務めるのは、自由、基本的人権の尊重、法の支配など普遍的価値を重視する日本のような国家の出身者が望ましい。日本が世界の安定と発展に貢献するためにも、国際機関における存在感向上が求められよう。
若者の留学後押し強化も
海外留学を希望しない人が多いなど、最近の若者の「内向き志向」も日本の存在感低下につながらないか心配だ。経済的支援も含め、留学後押しを強化する施策が欠かせない。