「富岳」世界一 幅広い課題解決に役立てよ


 理化学研究所と富士通が共同開発中のスーパーコンピューター「富岳」が、スパコンの計算速度を競う世界ランキング「TOP500」で、1位を獲得した。日本のスパコンでは2011年11月の「京(けい)」以来、8年半ぶりの快挙だ。

「京」の欠点を克服

 富岳の計算速度は京の40倍近くに達し、2位以下に大差をつけた。計算速度だけでなく、産業利用でのアプリケーションの処理速度や人工知能(AI)の計算性能、ビッグデータの処理で重要なグラフ解析の能力においても1位だった。京の最大100倍の性能で消費電力は2、3倍程度に抑え、わが国の科学技術の底力を見せつけた。

 スパコンの性能のカギを握るのは、人間の頭脳に当たるCPU(中央演算処理装置)だが、富岳は富士通が設計・開発した高性能のCPUを約15万個そろえた。効率よく通信するネットワークで結んで制御の最適化を可能にし、大量の計算を瞬時にできるようにした。

 その一方、CPU開発を英半導体設計大手ARMと共同で行う手法を採用。世界で普及するARM仕様は汎用性が高く、多数の企業や研究機関がアプリ開発に参画でき、富岳が国内外で広く使用されるようにした。京では計算速度にこだわったため、現実に即した使い勝手という面で劣ったが、富岳はそれを克服した。各産業の促進、学問の真理追究など、人類の幅広い課題解決に役立てたい。

 これまでスパコンの開発は、米国と中国が国の威信を懸けて激しい競争を繰り返してきた。今回もベスト5には米中が2機ずつ名を連ねている。米中は近く富岳を上回る新型機を投入する見通しだ。富岳がトップに君臨し続けるのは容易でないが、その威力を広く浸透させ、後継機開発に備えたい。

 スパコンは一言で言えば、ビッグデータの処理を行い、AIの能力を最大限に生かして、問題解決のための設計図を引く機械だ。富岳の本格運用が始まれば、新たな薬剤・ワクチン製造や治療法の開発をはじめ、自動車の安全性の向上など、産業界での数知れない応用ができるようになる。また、気象の予測、地震・津波のシミュレーションなども可能だ。

 特に製薬現場では今日、ヒトゲノムに基づいて病気の原因分子が特定されるようになり、それと結合する化合物を探すことが目標となった。極めて多くの化合物の中からそれを選ぶには、スパコンによる膨大な計算が必要だ。これによって画期的な医薬品の開発が可能となる。

 一方、異常気象や大規模な地震および津波など激甚化する自然災害に対し、より精度の高い気象予測への期待も高まっている。観測ビッグデータを活用した気象と地球環境の予測の高度化を果たし、的確な気象情報・気象データが提供されることが望まれる。

宇宙創生研究に期待

 日本は、宇宙創生や極微世界の学術研究について、世界のトップランナーの一人である。ビッグデータの発信、受信の中心地として世界の研究機関とつながり、その地位を維持するためにも富岳の応用が欠かせない。