トランプ氏弾劾審議入り決定、民主党に不利との見方も
米大統領選まで1年余り
2020年の米大統領選まであと1年余りとなった。トランプ大統領(73)にウクライナ疑惑が浮上したことを受け、野党民主党は弾劾に向け舵(かじ)を切ったが、これが大統領選では裏目に出る可能性もある。同党ではこれまで指名争いのトップを走ってきた中道派のバイデン前副大統領(76)に代わり、急進左派のウォーレン上院議員(70)が勢いを見せている。来年2月に始まる同党予備選に向けた今後の選挙戦の行方を探った。(ワシントン・山崎洋介)
泥仕合に陥るバイデン氏
ウォーレン氏にはビジネス界が反発
ウクライナ疑惑をめぐりトランプ氏と民主党との対立が先鋭化する中、注目されるのは来年の大統領選への影響だ。各世論調査によると弾劾への支持は無党派層や共和党支持者の一部にも広がりつつあるが、将来的には民主党にとって不利に働くことになるとの見方も強い。
「仮に私が民主党幹部だったら、弾劾に向けて動くことはしない。エネルギーのすべてを来年11月の選挙に勝つことに集中するだろう」――。選挙専門家のチャーリー・クック氏は2日、党内で強まる弾劾論に押される形で審議入りを決めたペロシ下院議長の判断は誤りだったとの認識を示した。
クック氏は、下院で弾劾訴追が可決されたとしても、共和党が多数派を握る上院で否決される見込みが高く、そうなれば予備選を前にトランプ氏に「勝利」を提供することになると分析。その間、疑惑追及に焦点が当たることで、医療制度改革や気候変動対策などの重要政策がかすむことは「部屋の中から酸素をすべて抜くようなもの」だと例え、疑問を呈した。
一方、予備選に向け正念場を迎えているのがバイデン氏だ。同氏がウクライナや中国で息子のハンター氏を用いて不正を働いたと主張するトランプ氏から連日、攻撃にさらされていることに加え、幾つかの世論調査ではウォーレン氏の後塵(こうじん)を拝している。
政治情報サイト「リアル・クリア・ポリティクス」によると、7日現在の平均支持率はバイデン氏26・5%に対し、ウォーレン氏は26・0%。先月上旬には10ポイント以上あった差が0・5ポイントまで縮まった。
バイデン氏は選挙資金の面でも、精彩を欠く。同氏の第3四半期の資金調達額は1520万㌦で、第2四半期と比べ600万㌦以上も減少。民主党候補でトップだったサンダース上院議員の2530万㌦や2位のウォーレン氏の2460万㌦を大幅に下回った。
その上、トランプ陣営と共和党は、バイデン氏の疑惑を取り上げたテレビCMによるネガティブキャンペーンに合わせて1000万㌦をつぎ込むと発表。バイデン氏はこれに対抗するため600万㌦規模の広告キャンペーンを計画していると報じられており、ウクライナ疑惑をめぐるトランプ氏との「泥仕合」に巻き込まれることで資金を消耗させることも予想される。
こうした状況について、政治専門紙ポリティコ(電子版)は4日、「バイデン氏に迫り来る資金難」と題する記事を掲載。バイデン氏が「共和党からの新たな広告による猛攻撃に耐えつつ、指名獲得のための戦いをするという二正面作戦を展開できるのか」と、その資金力に疑問を投げ掛けた。
バイデン氏に代わる最有力候補として浮上する勢いのウォーレン氏は、党内左派層に加え穏健派や白人労働者層にも支持を広げつつある。同じく急進左派で支持層が重なるサンダース氏が心臓発作によって一時入院したことも相まって、ウォーレン氏の指名獲得も現実味を帯びてきている。
しかし、資本主義や億万長者、ウォール・ストリートに敵意を示してきたウォーレン氏には、ビジネス界からの反発も強く、本選では幅広い支持を得ることは難しいとの見方が根強い。トランプ氏やバイデン氏の疑惑に焦点が当てられる中、これまで強い批判にさらされてこなかった同氏だが、今後その真価が問われることになる。