乱開発続く南米の森林
アマゾン熱帯雨林を中心に南米で発生している大規模な森林火災は、国際社会が環境保護に注目する大きなきっかけとなった。南米での違法伐採・開発の現場は想像以上に深刻で、森林の崩壊を止めるためには資金供与にとどまらない、具体的な行動が求められている。(サンパウロ・綾村 悟)
犯罪組織が違法伐採
持続可能な発展へ具体的行動が急務
「私たちにも快適なエアコンや乗用車など文明の恩恵にあずかる権利があるはずだ」「あなたがた先進国も自然を切り開きながら発展してきたはずだ。私たちに開発をやめろというのは先進国のエゴではないのか」
これは、アマゾン熱帯雨林の保護を欧州諸国や環境保護団体などから厳しく詰め寄られている経済・開発優先派のボルソナロ・ブラジル大統領の言葉ではない。
記者が南米パラグアイとブラジルの国境地域で起きている深刻な森林破壊を取材した際、同地を旅行していた欧州の若者に対し、小さな牧場を経営している現地男性が語っていた言葉だ。若者が森林破壊に密接に絡んでいる農牧業の規制が必要だと訴えたところ、牧場主が反論したわけだ。
ボルソナロ大統領も、「世界の肺」と言われるアマゾン熱帯雨林の消失を放置しているとの批判を受けながら、「アマゾン地域に住む2000万人の生活はどうするのか」という問いを投げ掛けている。
ただし、パラグアイ取材で目にした森林破壊の現場は凄(すさ)まじいものだった。取材に赴いたパラグアイ北東部のチャコ地方は、ブラジルにまたがる世界自然遺産「パンタナール」の一部でもあり、太古の時代から続く原生林が見渡す限り広がる。
そこは、交通手段が少ない隔絶した土地であることに加え、先住民保護区が点在することも手伝って、手付かずの原生林が残ってきた。
しかし、近年、開発の手はこの原生林にも及び、アマゾン地域に劣らぬ速度で森林が破壊されている。記者が見た現場では、ほんの数週間で数十平方㌔の森が切り崩され、倒された木々がまるで屍(しかばね)のように地平線にまで広がっていた。開発業者の中には武装した者も多く、抵抗するのはまさに命懸けだという。
パラグアイの違法伐採では、開発業者はまず、専門家に土地の権利を訴える書類などを用意させる。次に腕の良い弁護士を通じて司法を動かし、場合によっては裁判を長引かせて、その間に開発した土地から収益を上げる。
資本を出す側と、法律や買収問題を扱う人物、開発現場での実働部隊などが分担しながら違法な開発を進めていくスキームが出来上がっているというわけだ。
米ニューヨークに本部を置くヒューマン・ライツ・ウオッチは今月17日、ブラジルのアマゾン地域における違法伐採には「犯罪ネットワーク」が存在していると暴露した。木を切り出す側とそれを売りさばく側、さらには違法伐採された木を合法的に流通させる書類を用意する専門家などが組織立って関与しているというのだ。
また、アマゾン地域では、2009年からこれまで、違法伐採に絡んだ犯罪で300件近くの殺人事件が起きている。しかし、実際に警察などが捜査した案件は28件にすぎず、まさに「治外法権」だ。
森林の違法伐採や乱開発を防ぐためには、法律の整備に加えて、規制・司法当局への予算と支援、さらには地域社会との共生共存に向けたビジョンや資金も必要となる。
パラグアイのチャコ地方にあるレダでは、日本人有志が設立した一般社団法人「南北米福地開発協会」(中田欣宏会長)が自然との共生共存と地域社会の復興に取り組んでいる。魚の養殖などに取り組み、その技術を現地社会や原住民に伝えながら、土地の有効活用と自然保護の実現を目指している。
今年からはアスンシオン大学とも提携。稚魚をパラグアイ川に放流する式典にはパラグアイ大統領も参加するほど、地域社会からの期待を受けているプロジェクトだ。
アマゾン熱帯雨林の保護には、国際社会の資金面による援助だけでなく、「持続可能な発展」に向けた現実的な取り組みが必要となっている。