ぎりぎりで守られた信教の自由―米同姓婚ケーキ拒否
米連邦最高裁が同性カップルのウエディングケーキ作りを断ったケーキ職人の信教の自由を擁護する判決を下したことに、保守派・宗教界から歓迎の声が上がっている。米国では同性愛者の急速な権利拡大に伴い、結婚は男女間のものと信じるキリスト教徒が社会的制裁を受ける事例が相次ぐなど、「宗教迫害」とも呼べる状況が生まれていたからだ。
2015年の連邦最高裁判断で同性婚の全米合法化を勝ち取ったリベラル派・LGBT(性的少数者)勢力は、新たな闘争目標として同性愛・同性婚への異論を一切許さない社会の実現を目指している。今回のケーキ職人をはじめ、全米各地でキリスト教徒の事業者が同性愛者を差別したと訴えられているのは、こうした背景からだ。
万一、ケーキ職人が敗訴していれば、同性婚を間違いと信じる事業者が宗教的信念に反する仕事を断る権利が全米で否定され、米建国の理念である信教の自由が致命的な打撃を受けていた。その意味で、今回の判決は、圧迫され続ける信教の自由をぎりぎりのところで守ったといえる。
ただ、最高裁がケーキ職人の主張を支持したのは、コロラド州公民権委員会が職人の信教の自由を尊重しなかったことが理由で、事業者が宗教的信念を理由に同性婚に関する依頼を断ることは憲法上の権利と認めたわけではない。別のケースでは異なる判決が下される可能性もあり、同性婚と信教の自由をめぐる法廷闘争の行方は予断を許さない。
(編集委員・早川俊行)