トランプ氏勝利、同盟重視の外交を求める


 米大統領選は、共和党の実業家ドナルド・トランプ氏が民主党のヒラリー・クリントン前国務長官を破った。来年1月に第45代大統領に就任する。

 トランプ氏は選挙期間中、同盟国を軽視する発言を繰り返してきた。超大国の次期指導者に決まったトランプ氏には、同盟重視の外交を求めたい。

 中間層が既存政治に嫌気

 トランプ氏は開票時からクリントン氏を引き離し、勝敗のカギを握るとされたフロリダ、オハイオ、ペンシルベニアなどの激戦州を着々と制した。

 今回の大統領選は、ビジネスで名をはせた政治経験のないトランプ氏と、大統領夫人(ファーストレディー)、上院議員、国務長官という要職を歴任し、経験と実績は申し分ないクリントン氏との闘いであった。

 トランプ氏の「米国を再び偉大にする」とのメッセージに、既存の政治に嫌気が差す中間層が共鳴し、かねて富の不均衡に不満を持つ白人労働者が強い支持基盤となった。オバマ政権の負の遺産が一挙に噴き出した。

 クリントン氏は、国務長官時代に私用のメールアドレスを公務に使っていた問題、リビア・ベンガジ米領事館襲撃事件に関連する電子メール消去の疑い、夫の元大統領と運営しているクリントン財団をめぐる口利き疑惑で、人柄、品格がクローズアップされ、不正直で信頼できないとのイメージが定着。これらを払拭(ふっしょく)できなかった。

 私用メール問題は今夏に捜査が打ち切られた。だが、連邦捜査局(FBI)が先月末に捜査再開を議会へ報告。これでクリントン氏優勢の流れが一変し、トランプ氏支持が急増した。最終的には不起訴になったが、トランプ氏の逆転劇につながった。

 一方、トランプ氏優勢の報道を受け、東京株式市場では日経平均株価の下げ幅が一時、前日比1000円を超えた。外国為替市場でも一時、3円以上円高が進んだ。これを一過性とみる向きもあるが、世界経済の先行きの不確実性が一気に高まり、市場の混乱が続きかねないとして、世界の金融市場が身構える状況が見て取れる。

 トランプ氏の勝利に対して不安が高まるのは、トランプ氏が保護主義的な政策を掲げ、過激な言動を繰り返したためだ。自由市場での貿易推進路線の共和党主流派との早急な擦り合わせが求められる。

 「米国第一」主義を掲げるトランプ氏は、日本などの同盟国に米軍駐留費用の負担増を求めたり、米軍撤退をほのめかしたりするなど、同盟関係の一方的な見直しを迫る発言を繰り返してきた。同盟関係を商取引のように扱うのは、同盟国の重要性を理解していないとの批判を免れない。

 日本は理解得る努力を

 日米同盟によって日本に存在する米軍基地は、アジア太平洋地域での米軍の前方展開拠点として米国の世界戦略を支えている。日本にとっては、強引な海洋進出で「力による現状変更」を図る中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮に対する抑止力としての役割を果たしている。

 日米同盟は両国に不可欠だ。日本はトランプ氏の理解を得られるよう努める必要がある。