強まる中国のサイバー攻撃
「国家安全保障の危機」オバマ大統領
有効策見いだせぬ米政府
オバマ米大統領は今月25日に予定されている習近平・中国国家主席との米中首脳会談で、2国間の大きな懸案となっているサイバー問題を主要議題の一つとして取り上げ、懸念を伝える方針だ。しかし、中国側がサイバー攻撃をやめる可能性は低く、米政府は具体的な対策を立てることが急務となっている。(ワシントン・岩城喜之)

11日、米東部メリーランド州の米軍基地で行われた米兵との対話集会で笑顔を見せるオバマ大統領。この中で中国の関与が疑われるハッキングについて米中首脳会談で中国側に懸念を伝える考えを示した(AFP=時事)
米紙ワシントン・タイムズによると、中国によるサイバー攻撃は首都ワシントンを中心に、IT企業が集積するカリフォルニア州シリコンバレーや米軍基地などを標的に継続的に行われ、多くの侵入を許している。
これまでに軍のスケジュールや原子力潜水艦、対空ミサイルの情報などが盗まれたことが確認されているという。
米政府の人事管理局(OPM)のデータベースがハッカーの攻撃を受け、約2210万人分の個人情報が盗まれた事件も、「中国が主要な容疑者」(ジェームズ・クラッパー国家情報長官)との見方が支配的だ。
ジョン・ケリー国務長官はCBSテレビとのインタビューで、自身の電子メールが中国やロシアに見られている可能性が高い、とまで言及している。
激しさを増す中国のサイバー攻撃に、米政府は警戒感を強めている。
クラッパー長官は10日、下院情報特別委員会の公聴会で、「中国は安全保障に関する情報や企業の秘密情報、知的財産まで、米国の広範囲の権益を標的にサイバー攻撃を続けている」と指摘。「現在は情報を盗むことが主要なサイバー攻撃だが、将来は情報を書き換えたり、操作することになるだろう」とし、セキュリティー強化が急務になっていると強調した。
オバマ大統領は11日にメリーランド州の米軍基地で行われたイベントで、中国の関与が疑われるハッキングが増えていることに、「核心的な国家安全保障の危機であり、早急に対応する」と述べ、米中首脳会談で懸念を伝える考えを示した。
ただ、中国側は一貫して関与を否定している上に、「中国も被害国だ」(洪磊・中国外務省副報道局長)との主張を崩していない。
米政府は、これまでにも米中戦略・経済対話などの場でサイバー攻撃について懸念を伝えてきたが、中国によるハッキングは増すばかりだ。
こうした中国の態度に、オバマ政権はサイバー攻撃による産業スパイ活動が疑われている中国政府系の企業や個人に制裁を科すことを検討するなど、圧力を強める構えを見せている。
ただ、制裁については「個々のハッキングでどの企業が利益を得たのかを特定するのは困難な可能性がある」(米紙ウォール・ストリート・ジャーナル)ため、限定的にならざるを得ないとの見方もある。
一方、中国は習主席の訪米を控え、公安・司法を統括する孟建柱・共産党中央政法委員会書記を9~12日まで特使としてワシントンに派遣。ジェイ・ジョンソン国土安全保障長官やジェームズ・コミー連邦捜査局(FBI)長官らとサイバーセキュリティーについて相次いで協議し、米国の出方を伺った。
中国側はサイバー空間における共有の国際行動規範の策定に応じる構えを見せているが、国家戦略となっているサイバー攻撃を根本的に改めることは考えにくく、どこまで実行に移すかは不透明だ。
米国防総省は、来年までにサイバー防衛の人員を現行の約3倍となる6200人に増やす計画だが、有効な対策を見いだせていないのが現状と言える。
こうした状況に「米政府は、サイバー空間という新しい戦場への準備ができていない」(ジョン・ボルトン元米国連大使)との批判も出ている。
クラッパー長官は、政府機関から情報が次々と盗まれていることについて「海外での情報収集活動に支障が出る恐れがある」と危惧。国家安全保障局(NSA)のマイク・ロジャース長官は、サイバー戦争の危険性が増していることを強調した上で、「我々の国は、サイバー空間でかつてないほどの挑戦を受けている」と危機感をにじませている。





