転換点迎える米の対中政策
「建設的関与」失敗浮き彫りに
米国の対中国政策が「転換点」(ウォール・ストリート・ジャーナル紙)を迎えている。中国への接近を図ったニクソン政権以降、米政府は40年以上にわたり、「建設的関与」を対中政策の基本としてきた。だが、最近、米国の中国専門家の間で、建設的関与は中国を平和的で民主的な国家へと導くのではなく、逆に米国中心の国際秩序を脅かす強大なライバルを生み出してしまったと、その失敗を認めた上で政策の大転換を求める主張が広がっている。(ワシントン・早川俊行)
強硬路線求める主張が拡大
「米国の歴史上、最も組織的、重大、危険な情報判断の失敗だ」――。米政府や議会で長年、中国分析を担当してきたマイケル・ピルズベリー国防総省顧問は、2月に出版した著書『100年マラソン―米国に代わり世界の超大国となる中国の秘密戦略』で、建設的関与を基本とする対中政策は完全な誤りであったと認めた。
同書によると、米国の歴代政権は、①関与は中国を協力的にする②中国は民主化の方向に進んでいる③中国は多くの問題を抱えた脆弱な国家④中国は米国のようになりたがっている⑤中国のタカ派の影響力は弱い――という五つの前提に基づき建設的関与を推進してきたが、「全ての前提が誤りだった」という。
米国は建設的関与によって中国を平和的で協力的な民主国家へと誘導できると判断し、経済、軍事、技術などさまざまな分野で支援を提供してきた。だが、皮肉にも、米国の援助を受けて強大化した中国は、米国が築いた国際秩序に露骨に挑み始めている状況だ。
ピルズベリー氏は、これまで建設的関与を推奨してきたことへの自責の念を込め、「私は米政権に中国への技術・軍事支援を促す上で重要な役割を担った」と認めた上で、「中国は我々のバラ色の期待をほぼすべて裏切ってきた」と断じた。
ピルズベリー氏は、中国が米国を欺いて援助を引き出し、建国100周年の2049年までに米国に代わる世界の超大国を目指す「100年マラソン」と呼ばれる秘密戦略を隠し持っていることをつかみ、対中認識を改めた。同氏は「マラソンが進行中であることさえ知らない米国は負けている」と、このままでは中国に超大国の座を奪われると警告している。
ピルズベリー氏の主張に呼応するかのように、有力シンクタンク、外交問題評議会は3月、「中国に対する大戦略の変更」と題する報告書を発表した。執筆者のロバート・ブラックウィル同評議会上級研究員とアシュリー・テリス・カーネギー国際平和財団上級研究員は、ナショナル・インタレスト誌(電子版)に掲載された論文で、「米国の優位を犠牲にして中国を経済的、政治的に自由な国際システムに統合することを望む現在の対中アプローチは、アジアやそれ以外の地域における米国の影響力を弱めている」と断じた。
その上で、米国は「中国の台頭を支援するよりバランシングに重点を置く」対中大戦略の構築が急務であると主張。その具体的な目標として、①米経済再生による経済的優位の維持②中国を除外した新たな貿易枠組みの構築③中国が先端軍事・戦略能力を手に入れるのを防ぐ技術管理体制の再構築④中国周辺の同盟国・友好国の能力増強⑤アジア太平洋地域における米軍の戦力投射能力の向上――の5項目を挙げた。
ブラックウィル、テリス両氏は新たな対中大戦略について、冷戦時代にソ連に対して講じた「封じ込め」が基盤にはなり得ないとしている。だが、オーストラリア国立大学のヒュー・ホワイト教授は、両氏の主張を「事実上の封じ込め政策だ。中国の野心の受け入れを一切拒否している」と見る。いずれにせよ、有力シンクタンクから強硬路線への転換を求める主張が出たことは、ワシントンの対中政策をめぐる議論の潮流が大きく変わり始めたことを示すものだ。
一方、オバマ政権内でも変化の兆しが見られる。これまで対中融和政策を強く主張してきた2人の高官が最近、相次いで政権を去った。国家安全保障会議(NSC)のエバン・メデイロス・アジア上級部長と、国家情報会議(NIC)のポール・ヘーア東アジア担当国家情報官だ。
ワシントン・タイムズ紙によると、メデイロス氏は中国の軍拡を過小評価するホワイトハウスきっての親中派だった。オバマ政権は2011年に台湾への新型F16戦闘機の売却見送りを決めたが、背後で売却阻止に動いたのがメデイロス氏とされる。
ヘーア氏も中国の脅威を過小評価する偏った情報分析で知られ、中央情報局(CIA)に同氏と同じ親中派アナリストを起用させるなど、情報機関が中国に関して「集団思考」に陥る原因をつくったとされる。
同紙は「ヘーア、メデイロス両氏を含む親中派は、さまざまな省庁で徐々に強硬派に代えられている。強硬派は米国の政策を中国に懐疑的な方向にシフトさせた」と、政権内で対中強硬派が主導権を奪い、政策転換を促していると指摘した。






