進化論者、講演招聘に抗議 「栄誉ある市民」が標的に
進化論vsID理論 20年戦争 (11)
今回はダーウィン進化論者が、医療で比類なき貢献をした人に恥ずべき行為を行った例を紹介する。
その人はベン・カーソン氏。頭部が結合したシャム双生児の分離手術で「神の手」として知られているジョンズ・ホプキンス大学病院小児神経外科医である。また、同氏はデトロイトの貧困地区で育つ中で、子供時代には「あほう」などと虐められたり、癇癪の性癖で苦しむことがあったが、貧しい逆境を克服して成功していった、米国を代表する現代のヒーローの一人でもある。
2008年には、当時のジョージ・W・ブッシュ大統領から大統領自由勲章を授与された。大統領自由勲章は、最高に栄誉ある市民に与えられるもので、過去の受章者にはジョージ・H・W・ブッシュ、マーガレット・サッチャー氏らが名を連ねている。
あろうことか、こんな業績のあるカーソン氏をダーウィン進化論者らはターゲットにしたのだ。
事件が起きたのは昨年4月下旬。カーソン氏は、南部ジョージア州アトランタのエモリー大学から招待を受け、翌5月14日に学位授与式で基調演説を行うとともに、名誉学位が授与されることが決まっていた。
しかし、カーソン氏がダーウィン進化論に批判的な立場であることから、同大学の4人の教授、職員、学生ら500人が、カーソン氏を招聘することに抗議の署名を集め、同大学学生新聞に抗議文を掲載。カーソン氏が進化論を批判した過去のコメントを紹介しただけでなく、同氏は「ダーウィン進化論者は非道徳的だ」と述べたと最後に付け加えた。だが、この部分は教授らの捏造だった。
さらに抗議文を受けて学長は今後、人物調査をしっかり行うことを約束した。これらのことは大統領自由勲章まで受けた栄誉ある人に対して、招待した大学側が前もって非礼な振る舞いをし、恥をかかせたようなものだ。
しかしながら、カーソン氏は学位授与式当日、いつもと変わらない、堂々たる姿で登壇。演説の冒頭で「ダーウィン進化論者は非道徳的だ」と述べたとの抗議文内容を否定するとともに、次のように話したのである。
「われわれが異なる考えを持っていることは重要ではないことを忘れないでほしい。重視すべきは異なる意見を持つ人を尊敬することを学ぶことだ。対話をする能力こそがアメリカを偉大にさせたことの一つなのだ」
問題を直接的に指摘しないで、米国を繁栄させてきた価値観で悟らせるように語りかけた高潔な演説だった。ただ、カーソン氏のように名声もあり、世界的な小児神経外科医の腕前と人柄があったからこそ、乗り越えられたのかもしれない。
多くの大学には過激なダーウィン進化論者がいて、教授や学生でも正直に進化論に異論を唱えれば“餌食”にされてしまう現実が依然として存在する。だが、前回、ID夏期セミナーに多くの優秀な大学生・大学院生らが参加していることを書いたが、皮肉にも大学の抑圧的な空気が学生たちにIDに対する関心を一層持たせる要因になっている。
(編集委員・原田 正)