矛盾露呈する米の中東政策

「イスラム国」対策でイランと連携

イエメンではスンニ派軍を支持

 米オバマ政権の中東政策の矛盾が表面化している。中東ではイスラム教のスンニ派とシーア派の宗派対立があらゆるレベルで深まっているが、米国はイスラエルの反発に耳を貸さず、シーア派のイランと核最終合意に向けた枠組みで合意し「イスラム国(IS)」攻撃では連携した。一方、イエメンのシーア派である「フーシ派」の攻勢に対しては、立ち上がったスンニ派アラブ連合軍を支持している。
(ワシントン・久保田秀明)

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オバマ米大統領(EPA時事)

  スンニ派過激組織ISがシリア、イラクその他で勢力を拡大する中、オバマ政権はシーア派のイランの力を借りてISを撃退しようとしている。半面、イランと同盟関係にあるシーア派系武装勢力フーシ派が支配地域を広げているイエメンでは、米国は戦略的利益を共有するハディ政権を守るために、イランを敵視して軍事介入に踏み切ったスンニ派諸国を支持している。

 米国がイランとの関係改善に本格的に乗り出したのは、保守穏健派とされるハサン・ロウハニ大統領が2013年8月にイラン大統領に就任した直後だった。それは、イラクの過激派組織とシリアの過激派組織が合併してスンニ派過激組織「イラクとレバントのイスラム国(ISIL)」(後にISと改称)を結成し、本格的に支配地域の拡大に乗り出した時期でもある。オバマ政権がイランとの接近を図った背景には、欧米など6カ国とイランとの核協議を前進させたいという願望とともに、のちにイスラム国の樹立を宣言することになるISILに対抗するために、同じくISILを敵視するイランと連携するという意図もあったことは否定できない。

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ロウハニ・イラン大統領(EPA時事)

 実際に、イランはイラクでのISとの戦闘のため、昨年夏から革命防衛隊のクッズ部隊をイラク北部に派兵し、いまもティクリートなどで戦闘に参加している。クッズ部隊はブッシュ前政権により2007年にテロ支援組織に指定された。オバマ政権はこの状況を知りながら、黙認している。

 またジェームズ・クラッパー米国家情報長官は2月に世界の脅威に関する報告書を米議会に提出したが、報告書はテロリズムの章でイランに言及していない。この報告書は毎年出されているものだが、過去にはテロリズムに関する部分で必ずイランに言及していた。共和党議員は、イランとの関係改善を求めるオバマ政権がイランのテロ支援の現実を意図的に無視したものとして批判している。

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ネタニヤフ・イスラエル首相(AFP時事)

 今年になって、イエメンでシーア派系武装組織フーシ派が首都サヌアなど多くの領土を制圧し、イエメンが内戦状態に陥っている。イランはフーシ派の支配地域に物資輸送を行うなど、フーシ派を支援している。スンニ派アラブ諸国はフーシ派をイランの代理勢力と見なし、スンニ派10カ国連合の連合軍がイエメンへの介入を決めた。サウジアラビアは3月26日にイエメンのフーシ派拠点などへの空爆を開始したが、これは事実上イエメン進出を狙うイランへの宣戦布告だ。オバマ政権は、サウジアラビア、エジプトなどのイエメンへの軍事介入を支持した。

 中東の広い地域でスンニ派とシーア派の対立、戦闘がエスカレートする中で、オバマ政権はIS攻撃ではイランを支援し、イエメンでは間接的にではあるがイランに敵対するという矛盾した政策を進めているわけだ。米国の矛盾した中東政策は地域情勢を泥沼化させ、アルカイダやイスラム国など過激派勢力がさらに勢力を拡張する環境を生み出している。

 欧米など6カ国とイランとの核協議は、今月2日、6月末を期限とした最終合意に向けた枠組みで合意した。イランが経済制裁全面解除を条件にウラン濃縮能力を10年間制限するという内容で、オバマ大統領は「歴史的合意」と絶賛した。だが、イランの核研究開発の継続は許されており、制裁解除がイランの核兵器製造能力を向上させる可能性も排除できない。米議会では、「イランが核兵器獲得能力を維持しようとしているのは明白」(ジョン・マケイン上院議員)として、イラン制裁強化への動きが強まっている。オバマ政権が今後、矛盾をはらむ中東政策を軌道修正するかどうかは不透明だが、外交政策迷走がすでにもたらしたダメージは無視できない。

 イスラエルはかねてからイラン核協議を「悪い取引」として批判してきた。イスラエルのネタニヤフ首相は3月3日、米議会の招待により上下両院合同会議で演説し、イランとの核協議を露骨に批判したが、イランとの関係促進に執着していたオバマ大統領は憤慨して同首相との会談を拒否。米イスラエル関係はこれまでになく悪化しており、中東情勢の混乱を一層深める結果になっている。