岐路に立つブラジル 経済危機と汚職が深刻化
ブラジルで15日、中道左派ルセフ大統領の退陣や政治汚職追放などを求める大規デモが発生した。ルセフ政権が抱える政治危機は、近年にない深刻なものとなりつつある。(サンパウロ・綾村 悟)
反政府デモ、全土の主要都市に
世界的な資源ブームの中で新興5カ国(BRICS)の一角として世界の注目を集めてきたブラジルが岐路に立っている。
ブラジルは、BRICSの中でも、民主化が進んでいる優等生としてその将来が期待されてきたが、世界的な経済停滞を受けた資源価格低迷と共に経済成長が鈍化。さらに国営石油公社ペトロブラスをめぐる巨大汚職疑惑の渦に、下請け企業20社近くや、多くの与党の労働党議員を巻き込み、国民の政治不信を招いている。
ペトロブラスの汚職疑惑は、検察側が求めている賠償金額だけで日本円にして2000億円近くにも及ぶ巨大汚職事件だ。これまでに、検察によって労働党の財務局長を含む50人以上の国会議員が起訴されている。
現時点では、検察側はルセフ大統領の汚職関与を示す証拠はないとしているが、メディア等は、現職の大統領がこれほどの規模の汚職疑惑を関知していなかったはずはないと見ており、世論の視線も厳しい。
また、ブラジル国内は深刻なインフレと経済低迷に見舞われている。今年に入ってからのインフレ率はすでに7%近くにまで達し、相次ぐ利上げによってなんとかインフレを抑えこもうとしている。
また、水力発電に多くを頼るブラジルでは、深刻な水不足により電気料金が高騰、最高で80%もの引き上げが導入されている。他の公共料金や教育費、食料品などの値上げも加わって庶民の台所は火の車だ。
経済成長においても、国債など政府保証のソブリン債の格付け下落を防ぐために財政緊縮策の導入が不可欠となっているなど、今年と来年はマイナス成長になることが予測されている。
巨大な政治汚職と近年にない経済危機を受けて、ブラジルにおいて最も税金負担率が高いとされている中間所得層の不満は、これまでにないほどに高まっているのが現状だ。高所得層は経済成長の恩恵を、低所得層は政府の社会保障政策の恩恵を十分に受けてきた。
このような状況の中、今月15日にフェイスブックなどのSNSを通じて、政治汚職の追放とルセフ大統領の退陣を呼び掛ける声に、ブラジル全土の主要都市において200万人以上が呼応、ブラジル中の主要都市の目抜き通りを埋め尽くした。
サンパウロ市では、同市の中心に位置する巨大なパウリスタ大通りを数十万人ものデモ参加者らが占拠するほどの規模となり、全国ネットのキー局がデモの様子を生中継するなど大きな注目を集めた。
デモ参加者らは、政治汚職の追放に加えてルセフ大統領の退陣も要求、サンパウロやリオデジャネイロのデモ参加者の中には、プラカードなどで「軍の介入(クーデター)を」と呼び掛けるものもあったほどだ。
1960年代から80年代にかけて軍政を経験したブラジルだが、現在では民主化が進んでいることや、軍政時代の左派系運動家に対する拷問の実態などが明らかになったこともあり、ブラジルの世論が新たな軍政を受け入れる素地は全くない。にもかかわらず、政治問題としてタブーとされてきた軍政が持ち出されるほど、現在のブラジルの状況は深刻といえる。
一方、15日のデモに参加していたのは、多くが中間層の野党支持者と見られており、労働党の強固な支持基盤となっている貧困層からの支持は、低所得者層に対する手厚い社会保障制度などもあって衰えていないものと見られていた。
しかし、最新の世論調査によると、ルセフ大統領の支持率は13%と低迷(ダタフォーリャ調査)、逆に不支持は過半数を大きく超える60%超にまで達している。
ダタフォーリャ社の世論調査は、過去の大統領選挙などにおいても信頼できる数字であり、この数字によると、労働党政権を支えてきた貧困層にまで、ルセフ政権に対する不満が浸透していることを表すものとなっている。
デモの参加者らが求めている大統領の退陣に関しては、連立与党が議会で過半数を握っているため、議会主導による大統領退陣の可能性は低い。ただし、デモの主催者らは、4月12日にも全国的な規模のデモを行うことを呼び掛けている。政治汚職の撤廃や低迷するブラジル経済の再生に向けて政府が抜本的な対応を目に見える形で行わない限り、デモの沈静化は見えてこない。