「変革」か「継続」か、あすブラジル大統領選決選投票

貧困層は現職支持、大きい経済格差の影響

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選挙遊説先のルセフ大統領(右)(Agencia Brasil/Abr)

 【サンパウロ綾村悟】ブラジルで26日、大統領選挙の決選投票が実施される。ブラジルの大統領選挙はダイナミックそのもの。日本の総人口を超える1億4000万人の有権者が直接投票を行い(ブラジルの選挙は義務制)、大統領候補は、世界第5位の国面積を誇る広大なブラジル各地を遊説で飛び回る。

 テレビでは、連日のように全国ネットで両候補の宣伝が流れ、大統領候補同士による直接討論がブラジル全土に放映される。党勢や資金力、政治の才覚や有権者に訴えるカリスマ性など、幾つもの条件や時勢に合致した候補だけが生き残ることができるサバイバルレースだ。

 ただし、一見して複雑に見えるブラジル大統領選挙も、大まかには貧困層が支持する労働党候補と、富裕層や「政治改革」を求める中間所得層が支持する野党候補という流れに収まっている。

 決選投票では、中道左派系の与党労働党から、現職のジルマ・ルセフ大統領(66)が出馬しており、最大野党で中道のブラジル社会民主党のアエシオ・ネベス上院議員(54)との一騎打ちとなる。

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遊説先でブラジル社会党関係者と抱擁するネベス候補(前列右)(Agencia Brasil/Abr)

 22日に発表された最新の世論調査(ダッタ・フォーリャ社)では、現職ルセフ大統領の支持率が46%、対するネベス上院議員の支持率は43%となっており激戦状態、ブラジルの各メディアは調査誤差を考えれば、どちらが勝ってもおかしくないと報じている。

 ただし、全国平均では、ほぼ同率となっている両候補の支持率だが、地域別でみれば全く違う数字が出てくる。

 貧困層が多く、政府の貧困層向け補助金制度「飢餓ゼロ・プログラム」などの支給を受けている住民が多いブラジル北部では、地域によっては7割近くが労働党のルセフ氏を支持。労働党政権が行ってきた貧困対策が現政権への支持と信頼を勝ち得ていることが分かる。

 事実、ブラジル北東部は近年の旱魃(かんばつ)の影響で甚大な被害が生じており、政府支給の生活保護は貧困層にとって欠かせないものとなっている。

 一方、サンパウロ州や中西部、南部など経済圏といわれる地域では、自由市場主義者で中央銀行の独立性などを重視しながら、政治改革を訴える中道派のネベス氏に対する支持が高い。「商売人は99%がネベス支持だよ、政権を変えて景気を良くしないと」(サンパウロ市内商店主)などという声も聞くほどだ。

 そのネベス氏は、今月5日の大統領選挙1次選挙で惜しくも3位に終わったマリナ・シルバ元環境相(ブラジル社会党から出馬)の支持も得ている。シルバ氏は、環境保護活動などを通じてブラジル内外で非常に知名度が高い政治家。今回の選挙では、ネベス氏と共にブラジルには「変革」が必要だと訴えた。

 ネベス氏が訴える「変革」、政治汚職の撤廃や財政、官僚制度、税制の改革などは、長い目で見れば、貧困層支援に必要な財政確保にもつながるのだが、ネベス氏の主張は切り崩すべき労働党の支持層に浸透していないのが現状。シルバ氏や多くの野党から支持を得たが、支持率につながっていない。

 一方、ルセフ氏をめぐっては、石油公社のペトロブラス社から、与党・労働党の関係者に多額の賄賂が流れていたとの疑惑が持ち上がっていたが、今月18日にルセフ大統領が同疑惑を認める発言を行い、大きな注目を集めた。

 問題は、ペトロブラス幹部が、ブラジル国内の特定の業者との契約を優先する代わりに企業側から賄賂を受け取り、その賄賂が与党や与党を支持する政党や政治家に流れていたというもの。

 通常ならば、現政権にとって致命的なダメージとなりかねない汚職事件なのだが、当の大統領選挙では、ルセフ氏の支持率に大きな影響を与えていない。

 昨年、ブラジル全土に燎原(りょうげん)の火のごとく広がった「政治改革」や「公共投資、教育の充実」を求める反政府デモには、ブラジル中から数百万人が参加、近年にない「社会改革」を求める動きとなった。その流れから、今年の大統領選挙では野党候補が唱える「変革」という言葉がキャッチコピーとなったほどだが、実際には、政治改革、経済成長や財政改善といったブラジルの未来に向けた政策と同様に、貧困対策や補助金、直近のインフレ抑制といった有権者の生活に直結した内容が有権者の動向に影響を与えている。

 「変革」か「継続」か、ブラジルの南北問題をも抱えた大統領選挙は、与野党デッドヒートしたまま、投票日を迎えようとしている。