エボラ対策で後手に回る米

チャールズ・クラウトハマー米コラムニスト チャールズ・クラウトハマー

有効策ないオバマ氏

権利と自由が安全の障害に

 【ワシントン】残念ながら、米国の公衆衛生サービスはエボラ出血熱対策で後れを取っている。疾病対策センター(CDC)のフリーデン所長は、感染者の過去の行動を追うと国民に約束した。「感染経路をたどる」ことで、感染を止められる。しかし、感染した看護師のニーナ・ファムさんとアンバー・ビンソンさんは、CDCが当初、監視していた48人の中に入ってすらいなかった。

 「発端患者」であるトマス・ダンカンさんを治療した医師も看護師も同様だった。治療に当たった人々を誰も把握していなかった。

 すべきことは分かっているから、心配は要らないとCDCは言う。手順は分かっていると言うが、米国で最初の感染者が出た時、「手順違反」が指摘された。

 「われわれのせいではない。看護師がミスをした」ということだ。看護師組合はこれに反発した。フリーデン氏は翌日これを撤回し、誰も責めるつもりはないと語った。

 フリーデン氏は「エボラ熱の治療を安全に行うことは可能だが、困難が伴う」と語った。つまり、言うのは簡単だが、実行には危険が伴うということになる。ところが、フリーデン氏は最初、そんなことを言ってはいなかった。

 このような幾つものミスが、対応能力への疑念を生じさせ、信頼を損ねている。しかし、問題はもっと根深い。問題の根は、医師らにではなく、われわれにあるということだ。

 米国は、かつてないほどの脅威に直面しているにもかかわらず、従来の個人の権利や市民的自由の尊重にとらわれ続けている。これが、エボラ熱に対して効果的な対策が取れない根本的な理由だ。

 1.プライバシー

 ファムさんの身分は当初、公表されなかった。通常の状態ならば、プライバシーは守られなければならない。しかし、今は通常の状態ではない。相手は、感染者の70%が死亡する病原菌が引き起こす感染症だ。言われている通り、患者の接触経路をたどることが感染を止める鍵となる。それを迅速に行うには、ファムさんの名前を公表することが第一にすべきことだった。そうすれば、もっと早く感染者と接触した可能性のある人々を把握できた。

 2.隔離

 ダンカンさんが最初に入院した時、CDCは接触場所を追跡し、症状を定期的にチェックすると表明した。二次的、三次的接触に関してはこれでいいだろう。だが、「同心円」の内側の方にいる人々との接触には効果はない。ダンカンさんとの接触の度合いが強いのはこれらの人々であり、居住している集合住宅の大規模な除染が必要だ。これらの人々を直ちに隔離すべきだった。

 しかし、当初、これは行われなかった。確かに、隔離という言葉は、ダンカンさんをめぐる保健当局の最初の記者会見では、一言も出てこなかった。

 それもそうだろう。隔離は市民的自由の究極の侵害にほかならない。犯罪を犯したわけでも、悪いことをしたわけでもないのに、閉じ込められたり、入ることを禁止されたりする。公正ではない。アメリカ的ではないのだ。しかし、感染症の脅威にさらされたときは、これをせざるを得ない。

 3.避難

 なぜ、エボラ熱の患者を現地の病院で治療するのか。異常なことだ。専門知識はなく、訓練も受けていないからだ。だからミスをする。テキサス・ヘルス・プレスバイテリアン病院でこれを何度も見てきた。

 さらに、全米のすべての病院で、このごくまれにしか発生しない病気に対応するための訓練を施し、設備を整えることは費用が掛かり過ぎるし、ほとんどが無駄になる。全エボラ熱患者は、アトランタ、オマハ、ベセスダにあるような特殊な隔離センターに移動させるべきだ。

 これらの施設で特殊な治療が施せるからではない。治療ではなく、感染拡大を防止する術(すべ)をこれらの病院は知っているからだ。地方の病院ではこれはできない。政府機関がこの明白な事実を理解するには、15日という時間とビンソンさんの命が必要だった。

 4.移動の禁止

 ブリティッシュ航空はすでに、西アフリカの感染国への全フライトを停止した。米国はしていない。あと数例、エボラ熱の侵入が見つかれば停止するだろう。

 なぜすぐに停止しないのか。CDCは、移動を禁止すると、西アフリカへの医療支援が止まると主張している。ばかげている。医療関係者だけを例外にすればいい。飛行機をチャーター、またはすでに現地に向かっている軍用機を利用する連邦当局者もこれを適用し、帰国後21日間、行動を監視すればいい。それだけだ。

 オバマ大統領は自信満々に、安全か自由かを選択することは間違いだと宣言した。実際はその逆だ。これは、自由社会にとっての永遠のジレンマだ。政治は、これら二つの競合する価値観のバランスを探るプロセスにほかならない。

 テロに関しては、適切なバランスを取ってきた。しかしそれには時間がかかった。エボラ熱に関しては、時間はない。ウイルスは待ってくれない。早くバランスをリセットし、真剣に取り組めば、その分、安全は得られる。