ブラジル大統領選、26日に決選投票

ルセフ氏、ネベス氏の接戦予想

 南米ブラジルで今月5日、現職ジルマ・ルセフ大統領(66)の任期満了に伴う大統領選挙の第一回投票が行われた。上位2候補による決選投票は今月26日に実施されることになっており、貧困層に支持を広げる現職と、変革と市場開放を求める野党候補の一騎打ちとなっている。
(サンパウロ・綾村 悟)

有権者は変革と経済安定望む

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支援者に答えるルセフ大統領(Agencia Brasil)

 ブラジル大統領選挙は、現職のルセフ大統領をはじめとする11人が立候補していたが、実質的に中道左派のルセフ氏とブラジル社会民主党(PSDB)の中道右派アエシオ・ネベス上院議員(54)、それに環境保護活動で知られるブラジル社会党(PSB)のシルバ・マリナ元環境相(56)の3人に絞られていた。

 ブラジルの選挙管理委員会によると、開票率100%で労働党(PT)の中道左派、現職ルセフ大統領の得票率は42%、ネベス氏が34%で続いて2位となった。黒人系女性候補のシルバ氏は、一時はルセフ氏を凌(しの)ぐ支持を得ていたが21%で3位に留まり、決選投票への道は閉ざされた。

 今回の選挙では、当初、野党に目立った候補が見当たらないことから、ルセフ氏の再選が予想されていたが、8月上旬にPSBの大統領候補だったエドワルド・カンポス氏が飛行機事故で死亡、大統領選挙の流れを変えた。

 カンポス氏の代替候補として、同党の副大統領候補だったシルバ元環境相が大統領候補となり、シルバ陣営には、カンポス氏の死を悼む同情票が集まった。

 また、シルバ氏が大統領選挙の表舞台に出てきたことで「ポスト・ルセフ」を求める有権者の支持がシルバ氏支持に流れ込んだ。環境保護活動家で汚職を嫌うシルバ氏は、「変革」を求めるブラジルの有権者を動かした。

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選挙結果を受けて喜ぶネベス上院議員(Agencia Brasil)

 昨年まで、ルセフ政権の支持率は安定していた。労働党のルラ大統領は、2002年の大統領選挙で勝利し、ブラジルの民政化後初の左派政権が誕生した。

 ルラ大統領は、経済面において保守的な運営を行うと同時に、ブームになった資源・穀物輸出などを通じてブラジルに高度経済成長をもたらした。また、「飢餓ゼロプログラム」などの社会保障政策を通じて貧困層を支援、経済成長と社会保障を通じて新たな消費層を生み出し、ルラ大統領は、そのカリスマ性も手伝って貧困層を中心に絶大な支持を得た。

 また、ルラ大統領は、サッカーW杯や夏季オリンピックのブラジル誘致も成功させ、その正当な後継者として2010年の選挙で選ばれたルセフ大統領も高い支持率を得てきた。労働党政権による、貧困層への手厚い社会保障政策などは、財政バランスを欠くとの指摘もあったが、経済成長が続く内は、ルセフ大統領の再選に大きな影響を及ぼさなかった。

 こうした流れを変えたのが、昨年6月のコンフェデ杯ブラジル大会開催時に行われた大規模な反政府デモだ。デモ隊は政治汚職撲滅を訴えると同時に「スタジアム建設に使う膨大な予算を医療や教育、公共サービス投資に回すべきだ」と主張、その後、反政府デモはブラジル全土に広がりながら数百万人が道路や国会前などを埋め尽くした。

 現在、デモは収まっているが、ブラジル経済がインフレや景気後退に見舞われる中で、有権者の不満はつのっている。

 決選投票に向けて、ルセフ大統領の陣営は、幅広い支持を得ている貧困層に向けて、労働党政権の成果を強調している。今後は、対立候補のネベス氏を富裕層の代弁者と名指しし、同氏に対するネガティブキャンペーンを繰り広げるとみられる。

 一方、ネベス氏は財政改革や市場開放などを通じてブラジルに活力を取り戻すと有権者に公約、市場寄りのネベス氏が当初予想を上回る得票を得たことから、ブラジルの株式市場は大きく上昇している。

 ネベス氏は、もともと富裕層や経済界に人気があった。ブラジル経済がインフレや景気後退に陥ったことで、元ミナス・ジェライス州知事として財政再建を成功させたネベス氏への期待が高まった。経済安定に関心が強い中間層の支持を得ている。

 ネベス氏は、先週まで有力な大統領候補として見なされてこなかったが、ルセフ陣営のシルバ氏に対するネガティブキャンペーンが効果を上げる中で、本来ならシルバ氏に向かうはずの「反ルセフ」票がネベス氏に流れた形だ。

 今回のブラジル大統領選挙では、有権者は「変革」を求めるだけでなく、所得層に応じて経済的な安定を志向しているのが特徴だ。これほど流動的かつダイナミックな大統領選挙も近年になく、決選投票は近年にない接戦になるものとブラジルの各メディアは予想している。

 第1回選挙の得票率だけを見ればルセフ氏優勢だが、市場寄りのシルバ氏がネベス氏の応援にまわる可能性は高く、現状ではどちらが勝利してもおかしくない状況だ。