対中抑止で試されるオバマ米大統領の本気度

アジアの同盟国信頼どこまで

 オバマ米大統領による日本など4カ国歴訪は、アジアの同盟・友好国の間で疑念が生じていたオバマ政権への信頼を取り戻すことに主眼が置かれた。沖縄・尖閣諸島を日米安全保障条約の適用範囲だと明言したのもその一環だ。歴訪が中国牽制(けんせい)の強いメッセージになったのは確かだが、レトリックにとどまらず、中国の拡張主義を抑止する「本気度」を具体的に示していくことがカギになる。(ワシントン・早川俊行)

 「言葉だけで行動が伴わない」――。これはオバマ政権の外交政策についてワシントンで定着しつつある評価だ。

 有力シンクタンク、外交評議会のリチャード・ハース会長は、最近の論文で「オバマ政権には世界に公言したアプローチとの一貫性がない」と、言行不一致を批判。4月17日付ワシントン・ポスト紙も「アジアへのピボット(基軸移動)は不十分」と題する記事を掲載し、「大統領は(同盟・友好国に)抱かせた大きな期待に応えることができず、信頼を失う結果になっている」と指摘した。

 オバマ政権は大統領のアジア歴訪を、国内外に広がる「口先だけ」の印象を払拭(ふっしょく)する機会と位置付けていたことは間違いない。歴訪前に海外メディアと会見したエバン・メデイロス国家安全保障会議(NSC)アジア上級部長は、わざわざ同紙記事に言及して反論を試みたほどだ。

 オバマ氏が大統領として初めて、尖閣諸島を日米安保条約の適用範囲と明言したのは、日本が領海侵入を繰り返す中国の圧力にさらされる中、対日防衛義務について踏み込んだ発言をすることで信頼回復を狙ったものとみられる。

 フィリピンとは、米軍の駐留を事実上認める新軍事協定に調印。リバランス(再均衡)政策の具体的成果をアピールした形だ。

 さらに、ウォール・ストリート・ジャーナル紙によると、中国が東・南シナ海でさらなる挑発行為に出た場合、オバマ政権は中国周辺でのB2ステルス爆撃機の飛行や空母演習、監視活動強化など、これまでより強力な対抗措置を講じる準備を進めているという。

 オバマ政権の対中政策は、協調関係を重視し、忍耐強く自制を促すのが基本だったが、今年に入ってから中国に対して厳しい姿勢を示すようになった。政権きっての親中派で融和路線を主導してきたとされるメデイロス氏でさえ、中国が南シナ海にも防空識別圏を設定すれば、「この地域の米国のプレゼンス・軍事態勢を変える結果になる」と警告するなど、対中政策を軌道修正した可能性が指摘されている。

 オバマ政権は大統領のアジア歴訪を通じ、中国にこれ以上の拡張主義的行動は許さないとの警告を発したといえるが、問題は中国側がこれをどこまで深刻に受け止めたかだ。

 アメリカン・エンタープライズ政策研究所(AEI)のマイケル・オースリン日本部長は、化学兵器を使用したシリアやクリミアを併合したロシアがオバマ政権から「何の罰も受けていない」ことを踏まえ、「オバマ氏はレトリックだけだと中国は判断するかもしれない」と指摘。「問題は米国に中国の侵略を抑止する能力があるかどうかではなく、大統領にその意志があるかどうかだ」と懸念を示した。

 軍事面でも、中国は弾道ミサイルや潜水艦など、米軍の戦力展開を阻害する「接近阻止・領域拒否(A2AD)」能力を増強。これに対し、米国はA2AD環境の打破に必要な長距離攻撃能力などが不十分なほか、国防費の強制削減もそのままだ。中国はオバマ政権の警告を裏付けに乏しいと捉える可能性も否定できず、抑止力強化の具体的措置が今後一段と重要になる。