揺らぐ民主主義の根幹 米大統領選
編集委員 早川俊行
混乱が続く米大統領選で、明らかになったことが一つある。それは米国の民主主義の威信が地に落ちたことだ。
選挙を公正に行うことは、民主主義の根幹である。ところが、今回の大統領選では不正が疑われる事例が各地で続出している。
激戦州のペンシルベニア州などでは、共和党のトランプ大統領の陣営が派遣した選挙監視員が郵便投票の開票作業に立ち会うのを拒否されるケースが相次いだ。これは極めて深刻な問題だ。今回の選挙で大幅に拡大された郵便投票は、不正行為を招く恐れがあることから、開票作業を監視することは公正性の確保に不可欠であり、州法で認められたものである。
だが、共和党の推計によると、同州では15万~20万もの郵便投票が監視されずに開票されてしまった。郵便投票はいったん開票されてしまうと、不正票であるかどうか後から確認することはできない。
ノースカロライナ州のジェイソン・セイン州下院議員は、本紙8日付に掲載された寄稿で、郵便投票が不正の温床になったと非難した。セイン氏によると、選挙で選ばれていない選挙管理委員会の役人たちが郵便投票のルールを一方的に変更し、不正を防ぐ措置を大幅に緩めてしまったという。
激戦州で郵便投票の受付期限延長などのルール変更が行われたのは、新型コロナウイルス禍でもできるだけ多くの有権者が投票できるようにすることが表向きの理由だ。だが、郵便投票が増えれば増えるほど、民主党のバイデン前副大統領に有利に働く。不正の恐れがあったとしても、選挙制度を有利に変えようとする政治的思惑があったことは間違いないだろう。
ペンシルベニア州の郵便局では、局長が投票日以降に届いた郵便投票も有効票にするため、消印の日付を変えるよう指示していたことが、配達員の証言で明らかになっている。米郵政公社(USPS)の労働組合は、民主党寄りで知られる。
事実上、民主党の応援団と化した大手メディアは、法廷闘争を繰り広げるトランプ氏をまるで民主主義の破壊者であるかのように批判している。だが、選挙の不正をただすことは、民主主義を守る行為である。そもそも不正を追及するのは、報道機関の役目ではないのか。
共和党のリンゼイ・グラム上院議員は、このままでは「もう二度と共和党大統領は選ばれなくなる」として、徹底抗戦を呼び掛けている。不正や勝手なルール変更を放置すれば、本当にそのような事態が起こりかねない。
不正が疑われる事態がはびこり、メディアもそれを問題視しない。主要都市では暴動発生に備え、店舗が扉や窓ガラスをベニヤ板で覆った。今回の大統領選の敗者は、間違いなく米国の民主主義そのものである。