対中国政策 強硬策競い合うトランプ、バイデン両氏
対中政策をめぐってトランプ米大統領が次々と強硬策を打ち出す中、民主党候補のバイデン前副大統領も張り合うように対中批判のトーンを高めている。
「トランプ氏はダライ・ラマ法王と会ったことも、話したこともない、ここ30年で初めての米大統領であることを恥ずべきだ」
バイデン氏は今月3日に発表した声明で、自身が大統領に当選すれば、チベット仏教最高指導者のダライ・ラマ法王と面会するほか、チベット自治区において人権侵害に関わった中国当局者へ制裁を科すなどチベット人への支援を「強化する」と約束。トランプ政権は7月にチベット問題をめぐり中国当局者にビザ制限を課しているが、バイデン氏は、トランプ氏が貿易合意にこだわるなどして中国の人権問題を軽視してきたと非難した。
バイデン氏の対中姿勢は、ここ1年で大きく変化している。
バイデン氏は、上院議員時代の2001年に中国の世界貿易機関(WHO)加入に賛成するなど、長年の政治経歴の中で中国の経済発展を優先させる「関与政策」の推進役となってきた。昨年5月には、中国が「競争相手ではない」と述べ、その脅威を過小評価していると批判を浴びた。
だが、今年2月の民主党大統領候補者による討論会で、バイデン氏は習近平国家主席について、100万人のウイグル族を強制収容所に送り込む「悪党」とまで呼ぶようになった。先月下旬には、新疆ウイグル自治区における弾圧を「ジェノサイド(集団虐殺)」だと批判する声明を発表した。
バイデン氏の対中姿勢の硬化は、米世論の対中認識が、中国の知的財産窃盗や人権問題、新型コロナウイルスの初期対応の失敗などにより、急速に悪化したことを反映している。ピュー・リサーチ・センターが先月30日に発表した世論調査結果によると、73%が中国に悪い印象を持ち、2年前と比べ26ポイント上昇。習近平国家主席をほとんど、もしくは全く信頼していない人も77%に上った。
トランプ政権は、世論の後押しを受け、テキサス州の中国総領事館閉鎖、南シナ海における中国領有権主張の否定、厚生長官の台湾訪問などの強硬策で中国への圧力を一層強めている。トランプ氏は、こうした実績を背景に、中国問題を前面に出し、再選の追い風にしたい考えだ。
先月下旬の共和党全国大会で、中国出身の盲目の人権活動家、陳光誠氏が演説し、中国共産党に対抗するための民主国家の連携を「トランプ大統領が主導してきた」と評価。党大会を通じて登壇者は政権の対中強硬姿勢をアピールしつつ、バイデン氏が「弱腰」だと相次いで批判した。
これに対し民主党は、全国大会で採択した綱領で、中国による経済、安全保障、人権面における「深い懸念」を示し、同盟・友好国と連携して対抗する方針を強調。一方で、気候変動や核不拡散では中国と協力を模索するとした。
しかし、バイデン氏を含め大会の発言者から中国についての言及はほとんどなかった。有権者の評価が低いトランプ氏の新型コロナ対応などに焦点を当てるためとみられるが、対中政策への本気度に疑問を残した。
ただ、米議会や外交関係者の間に、党派を超えた対中脅威論が広がっていることなどもあり、バイデン政権が誕生したとしても強硬路線は概(おおむ)ね継続されるとの見方も強い。バイデン氏は、今後予定されるトランプ氏との討論会などを通してより明確な対中方針を打ち出せるかが注目される。
(ワシントン・山崎洋介)