エジプトに「日本研究所」創設

 エジプトを含むアラブ世界で、日本への関心が高まっている。エジプトでは日本式教育の一部、特別活動(特活)の200校での開設に向け、パイロット校12校での教育実施が始まり、7月15、16の両日にはカイロ大学で「日本研究所」創設記念シンポジウムが開催された。(カイロ・鈴木眞吉)

アラブ世界の日本研究の窓口に
カイロ大でシンポ、近代化の経緯学ぶ

 研究所創設を牽引(けんいん)してきたカイロ大学文学部日本語日本文学科のアーデル・アミン学科長は7月12日、本紙との単独インタビューに応じ、研究所設立の経緯や目的、今後の活動内容を説明した。

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開会式で壇上に並んだ(左から)永田見生久留米大学長兼理事長、香川剛廣駐エジプト日本大使。右端はアーデル・アミン・カイロ大学文学部日本語日本文学科学科長

 それによると、「アジア研究所」が1990年代に、世界全域を対象としていた「地域研究所」に統合されたことから、特に日本に焦点を合わせた研究機関の再設立の必要性を痛感、「日本研究所」の設立を決断した。設立に4~5年かかったという。

 同研究所は、カイロ大学日本語日本文学科からは独立した組織で、日本語教育や日本文化普及の枠を超え、科学的な日本関連研究や日本の近代化の経験などを、エジプトとアラブ世界に伝えることを目的としている。日本研究を志しているカイロ大学以外のエジプトとアラブ諸国や海外の大学に対する窓口的役割を担うという。

 同学科長は、国内外の日本研究機関と共同研究プロジェクトを企画し、学術交流し、機関誌「言語と文化」を発行、日本研究支援の電子図書館をも設立すると強調した。

 シンポジウムの主題は、「非西欧社会の近代化再考-日本とエジプト(アラブ)の場合」。日本と、エジプトを含むアラブ諸国は非西欧社会としての共通点を有していることを確認、欧米社会を凌駕(りょうが)できるよう協力し合いたいとの願いが込められている。

 カイロ大学と久留米大学が主催。後援は、在エジプト日本大使館、国際交流基金カイロ文化センター、広島大学、東京外国語大学。

 シンポジウムでも発表があったが、アラブ人にとり、東洋の日本が、西欧のロシアを、日露戦争で打ち負かした事実は、西側からの長期支配に苦悩してきたアラブ諸国にとって、信じられないほどの快挙だったという。日本への尊敬や憧れがアラブ世界に拡大する契機になったとされる。

 日本はその後、第2次世界大戦で敗戦を経験、完璧に叩(たた)きのめされたが、世界第2の経済大国にまで登り詰めたことがまたもや、アラブ諸国の目を奪うことになる。

 エジプトにとって日本は、格別な存在という。近代化に踏み出した時期が両国ともほぼ同時期なのに、日本は西欧化に成功、近代化を達成していくのに対し、エジプトは西欧化に失敗、それが近代化失敗につながり、いまだもがいているとみる。

 日本が成功した原因は何であり、エジプトが失敗した原因は何だったのか。この謎を解き明かすことこそ、エジプトを近代化させる唯一の道ではないのか。エジプトの識者は深刻に考えている。このことが日本研究所創設の一大目的でもある。

 初日の開会式冒頭上映されたのは、小池百合子都知事の祝辞。カイロ大学卒業の同知事は、国会議員当時、日本・エジプト議員連盟を率い、植林事業を進展させるなど、エジプトへの貢献を惜しまなかった。メッセージの中で「中東・アラブ世界による日本研究の場として大成功するように祈念する」と述べた。

 共催した久留米大学の永田見生理事長兼学長と香川剛廣駐エジプト日本大使、サイド・タウ・カイロ大学副学長らがあいさつ、日本とアラブ世界との政治・経済・文化など幅広い協力関係の進展に期待感を表明した。

 2日間のシンポジウムでは、13人の日本人学者(久留米大や広島大、広島市立大、早大、東北大、東京外大など)や、エジプトやレバノン、サウジアラビア、トルコ、マレーシアなどアラブ・イスラム諸国の学者、合計29人が研究内容を発表、大きな盛り上がりを見せた。今後は年2回シンポジウムを開催、次回は来年3月、広島大との共催予定。