頻発するイスラム過激派のテロ 不信仰者として殺害を正当化
中東で争いが絶えない。1月2日に、サウジアラビアがイスラム教シーア派指導者を含む47人を処刑、それが一因となって、サウジとイランが国交を断絶した。過激派組織「イスラム国(IS)」は3日、「英国のスパイ」として男性5人を処刑した映像をインターネット上に公開。ISはリビアでも7日、警察訓練所でテロを実行、65人以上を殺害した。
(カイロ・鈴木眞吉)
欧州各地で、反移民デモ
ISは12日、トルコ最大の都市イスタンブールの観光名所で自爆テロを行い、ドイツ人10人を含む11人を殺害した。15日にはブルキナファソの高級ホテルが襲撃を受け、外国人12人を含む29人が死亡した。翌16日にISは、シリア東部で400人を拉致、うち300人を虐殺した。30日にはイスラム過激派組織ボコ・ハラムが村を襲撃して86人を殺害、31日にはISがシリアの首都ダマスカス近郊で連続3件の爆発事件を起こし71人を死亡させた。
NGO「シリア人権監視団」によると、ISが「国家」樹立を宣言して以来の処刑者総数は3895人に上る。
サダト元エジプト大統領の甥で、現在、「改革と発展党」党首のモハメド・アンワール・サダト人民議会議員は、本紙とのインタビューの中で、無慈悲なテロや極刑を繰り返すISやアルカイダ、ボコ・ハラム、タリバンなどは、タクフィーリー派の思考法を受け継いでいると指摘、彼らは、現代的見解を持った現代的イスラム教徒を殺害する許可を与えていると批判した。
タクフィールとは、罪を犯せば不信仰者と断定すること(宣言)を言い、ハワーリジュ派の中で用いられた思考方法とされる。ハワーリジュ派とは、イスラム教初期に、多数派から政治的理由で分離した派で、ハワーリジュは「退去した者」を意味している。彼らは、イスラム教の聖典「コーラン」の規定(イスラム法)や文字に固執、それを固く守ることをよしとし、信仰と行為は一致しなければならないと考える。
そのため、イスラム教徒でも罪を犯せば信仰者から不信仰者に転落すると見、殺害しなければならないと考えるのだ。
1981年にサダト元大統領を暗殺したのは、イスラム主義組織「ムスリム同胞団」から分派した、イスラム過激派組織「ジハード団」だが、この組織はタクフィールを唱えていた。ムスリム同胞団は、現在のイスラム過激派諸組織の源流で、「過激派の温床」。双方ともタクフィール派の流れをくんでおり、エジプトのシシ政権が同胞団を「テロ組織」に指定したのも、タクフィール派の流れをくむ危険な団体であることを見抜いているからだ。
ハワーリジュ派は、不信仰者に対するジハードを積極的に推奨、一部は、イスラム教徒から出た不信仰者とその家族は殺害されねばならないとも考える。
一方、穏健なイスラム教徒は、タクフィールを否定している。人間の心の中は他人には分からないと考え、多神崇拝さえ犯さなければ、信仰者として認めるからだ。またたとえ、罪を犯したとしても、不信仰者であるかどうかは、人間が判断することではなく、神が最後の審判でなさることだと考える。
穏健派の思考の原点は、神は完全だが、人間は不完全だという考えで、そのため人間は罪を犯すこともあり、間違うこともあるのだから、お互いがお互いの意見に耳を傾け、物事は多数決で決めていこうという、民主主義を受容する思考基盤を持っている。
米国では1月中旬、イスラム教徒が過半数の市議会が初めて誕生(ミシガン州ハムトラミック町)、イスラム教徒の影響力は全世界的に拡大している。しかし欧州各地では、反移民デモが頻発し、イスラム化に抗議する人々が声を上げている。本来のイスラムから逸脱した勢力による蛮行を警戒しているからだ。
米紙ワシントン・タイムズは、オバマ米大統領がこともあろうに、大統領就任以来初めて訪問するモスクとして、タクフィール派の流れをくむ過激派の温床「ムスリム同胞団」系モスクを選んだとして厳しく批判した。
ISには、化学兵器製造の疑いも掛けられている。イラク元兵士が協力しているとされる。
イスラム過激派思想が彼らを暴走化させている以上、イスラム思想の正しい伝播に責任を持つイスラム指導者も重大な責任を問われている。政治指導者とイスラム穏健派指導者の責任は重大だ。