ISの反撃、パリ同時多発テロ イスラム指導者は過激思想排除を
過激派組織「イスラム国(IS)」は10月末、エジプトでロシア機を墜落させ、11月中旬には、フランスのパリで同時テロを引き起こした。犯行声明では、イスラム教徒が聖典とするコーランの章句を引用、イスラム信仰に基づく行為であると誇らしく宣言した。(カイロ・鈴木眞吉)
オバマ大統領の中東政策失敗も一因
9月30日のロシアのシリア内戦軍事介入以来、元気を取り戻したシリア政府軍によるISを含む反体制派への攻撃は激化した。
シリア政府軍は11月10日、北部アレッポで、1年以上ISに包囲されていたクウェイリス軍用空港の包囲網を突破、ロシア軍介入以来初の大戦果を挙げた。奪還はロシア軍機の同基地利用につながり、アレッポの奪還作戦を支援し得る。
一方米軍は12日、ISが
“首都”とするラッカを空爆、後藤健二さんらを斬首処刑した「ジハード・ジョン」(ムハンマド・エムワジ)を殺害した。
また、クルド自治政府のバルザニ議長は13日、イラク北部シンジャルをISから奪還したと宣言。当地はラッカとイラク第2の都市モスルを結ぶ幹線道路上にあり、モスル解放の鍵を握る戦略的要地。
ところが、ISは後退傾向にあるとの憶測を覆すかのように13日夜、パリで同時多発テロを敢行、129人を殺害、352人を負傷させた。死亡した実行犯7人の大概は自爆した筋金入りの活動家だった。
前日の12日には、レバノンの首都ベイルート郊外で、2件の自爆テロを実行し43人を殺害、犯行声明を出した。これらのテロは、9月にシリア・ラッカで決定され、現場に指示されたとされる。トルコの最大都市イスタンブールでも13日にテロが計画されていたが未然に防止された。サウジアラビアも狙われ、米国も16日、名指しされた。
ISは14日、パリのテロへの犯行声明に、コーランの章句(集合章2節)を引用した。アジアプレス編集部が英文から訳した一部を抜粋すると、「アッラーは、信仰者たちと一緒になって、自らの手で彼ら(敵を指す)の住まいを破壊した」として、テロ実行犯らを信仰者になぞらえ、「彼らを予期せぬ方向から襲い、彼らの心に恐怖心を投げ込んだ」として、今回のテロ行為を正当化した。「見る目を持つ者よ、戒めとするがいい」として、“彼ら”に警告した。
さらに“信仰者たちのグループ(テロ実行者)”を、「世俗的生活と決別し、アッラーの為に自分の敵によって殺されることを自ら望み、進み出た青年達だ」と指摘、世俗生活を捨て、聖戦のために敵に殺害されることや自爆を「称賛に値する行動」と位置付けた。さらに、「その宗教を信じ、その預言者、その盟友を支持してこれを遂行した」と明言、テロ行為は、イスラム教と預言者ムハンマド、盟友に対する信仰と忠誠心から行われたことを認めた。
ここで明確なことは、コーランやイスラム教義・思想がテロを呼び起こし、実行させている事実だ。これは、シシ・エジプト大統領も指摘している。イスラム国家・世界の創建のためならば、大量虐殺もいとわない危険思想がある。
貧困や差別などは発端にはなりえるものの、命を超えさせるのはイスラム信仰・思想・教義だ。
コーランの悔悟章5節には「聖月が過ぎたならば、多神教徒を見つけ次第殺し、またはこれらを捕虜にし、拘禁し、又全ての計略を準備して、これらを待ち伏せよ」とあり、ムハンマド章4節には、「あなた方が不信心な者と、戦場で見える時は、彼らの首を打ち切れ。彼らの多くを殺すまで戦い、捕虜には縄をしっかりかけなさい」とあり、殺人・暴力を是認している。
テロを根絶するには、イスラム過激派思想の根絶以外に方法はなさそうだ。テロ実行者を殺害しても、思想がある限り、次々に後継者が現れ、絶えることが無いからだ。ビンラディンが殺害されてもバグダディ容疑者が出てくる。シシ・エジプト大統領は「国際社会は、イスラム思想の危険性の除去をイスラム指導者に実行させるべきだ」と指摘している。
ここまで事態を悪化させたもう一つの重要な原因は、オバマ米大統領の中東政策の失敗だ。オバマ氏の「われわれの目標はISの封じ込めだ」の発言に対し、ヒラリー・クリントン前国務長官は14日、「封じ込めではなく壊滅せねば」と反論した。






