クルドへ弾圧強めるトルコ
総選挙控え支持獲得狙う
トルコ総選挙の投票日を11月1日に控え、同国の与党公正発展党(AKP)支持者とクルド民族支持者との間の衝突が東京にも波及、トルコ大使館前で25日、乱闘が発生して9人が重軽傷を負った。背景には、トルコのエルドアン政権によるクルド系組織に対する露骨な弾圧がある。(カイロ・鈴木眞吉)
トルコからの独立を求め続けてきたクルド人勢力に対するトルコ政府の弾圧は歴史的なものだが、最近弾圧が顕著になった理由は、先回の総選挙でクルド系の国民民主主義政党(HDP)が票を伸ばし、2002年のAKPの政権獲得以来、初の過半数割れに追い込んだことにある。
AKPは、野党との連立を試みたものの決裂、エルドアン大統領は総選挙の再実施を決断した。過半数を獲得し得るとの読みがあったとされる。
支持回復のための戦術の一つは、反政府武装組織クルド労働者党(PKK)に対する攻撃を強化したことだ。PKKによる反政府闘争を引き出しては「テロリスト」呼ばわりをして、クルド人勢力のイメージを悪化させ、票を回復するのが狙いだった。
しかし、与党とエルドアン大統領に対するクルド人勢力の反発を、より決定的にさせたのは、10日に首都アンカラで発生した連続自爆テロ犯の特定に当たり、捜査本部とは別の大統領直属の機関、国家監査委員会を13日に設置、独自の捜査に乗り出したことだ。
14日にはアンカラ警察のトップを含む幹部3人が解任された。エルドアン大統領は今までも、自分に刃向かう政敵や反対勢力の解任・更迭を繰り返し、国内外から「権力の乱用、強権的」と批判されてきた。
昨年1月、同氏の息子や閣僚らを含めた汚職疑惑に対抗、国家警察副長官ら350人の警察官を解任した。3月には、政権糾弾運動の背後に、「かつての盟友」ギュレン師がいるとして、同師系の私立学校4000校を閉鎖した。4月には、憲法裁に圧力をかけ、同月末には、米国にギュレン師の追放を迫り、12月には逮捕状を出した。
エルドアン大統領は22日、首都での講演で、「自爆テロ事件の背後には、ISとPKK、アサド政権の情報機関、シリア人のクルド人勢力がおり、これらが共謀した」と断じた。
しかし、PKKはシリア内戦ではISと戦闘し、ISはアサド政権の情報機関と敵対関係にあるなど、4者が協力してテロ事件を起こすなどあり得ないとの疑念が、同国の識者や野党関係者から上がっており、PKKを含むクルド人の勢力を削(そ)ぎたい、同大統領の「でっち上げ」の可能性が指摘されている。
イスラム法の適用によるイスラム国家を目指す、ムスリム同胞団系政党出身のエルドアン氏の目標は、民主主義とは無関係のイスラム独裁国家「カリフ制によるオスマン帝国」の再興にあるとされ、総選挙での議席拡大を通じて、大統領権限のさらなる強化を狙う憲法改正を断行したいのが当面の本音とされている。