露がシリア介入、対応割れるアラブ

米は反体制派への武器支援強化

米露代理戦争の様相も

 ロシアが9月30日にシリア内戦に介入、破竹の勢いで、イスラム主義勢力を撃破し始めてから3週間が経過した。欧米諸国は介入反対を表明したが、オバマ政権の中東政策失敗を見つめてきた一部欧州諸国やエジプトを含む複数のアラブ諸国は本音で歓迎するなど、対応は割れた。遂にイランも介入を開始。それに対し米国は、反体制派への武器支援を強化、シリア内戦は米露の代理戦争の様相も呈し始めている。
(カイロ・鈴木眞吉)

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9月30日、シリア中部ホムス県の破壊された建物(AFP=時事)

 オバマ政権の中東政策上の誤りは、アラブの春以降の中東の中心に「ムスリム同胞団とトルコを据えたことにある」。エジプトの識者は口を揃(そろ)えてこう語る。事実、ムスリム同胞団は、オバマ政権の支援の下、チュニジアでは同胞団系政党「アンナハダ」を第一党に躍進させ、エジプトでは、同系政党「自由公正党」を基盤に、モルシ政権を誕生させた。ヨルダンでは、議院内閣制を主張して国王の権限縮小を図り、リビアでは、国際社会が認める世俗派政権を東部トブルクに追放、首都トリポリに独自の議会と政府を創設、全国制覇を目指している。シリアでは、イスラム穏健派・過激派双方の背後にあってアサド政権打倒を目指し、漁夫の利を得ようと手をこまねいている。パレスチナでは、同胞団を母体とするイスラム教過激派組織「ハマス」をたき付け、対イスラエル第3次インティファーダの実現に奔走している、という具合だ。

 エジプトの識者らは、オバマ氏は、①ムスリム同胞団の暴力性や独裁性などの反民主主義的体質を見抜けず、過激派と比較して「穏健だ」とみなし②トルコのエルドアン政権も「穏健イスラム」と誤解した、と語る。その結果、イスラム主義勢力がアラブ諸国を席巻、民主主義樹立を求めたアラブの春の理想は頓挫した。

 トルコのエルドアン大統領は、それまでの世俗派政権担当者とは正反対のイスラム主義者で、イスラム法によるイスラム国家「オスマン帝国」の再興を目指す同胞団員。トルコは同胞団保護の立場からロシア介入に反対、16日にはロシアの無人機を撃墜した。

 1928年エジプトで結成されたムスリム同胞団は穏健派を装うものの、理論的支柱のサイエド・クトゥブは、「武力を用いてでもジハード(聖戦)により、イスラム国家の建設を目指すべきだ」と主張、れっきとした武装集団だ。続いて同胞団の理論家となったパレスチナ人のアブドラ・アッザームは、国際テロ組織アルカイダの指導者、故ウサマ・ビンラディンの師であり、中東を混乱に陥れている「イスラム国(IS)」は、アルカイダから分派した組織。すなわち、ムスリム同胞団は、全てのイスラム過激派組織の「元祖であり温床」なのだ。

 エジプトがロシアの介入を事実上支持したのは、ロシアがムスリム同胞団を含むイスラム勢力の一掃を開始したからだ。

 反対に、サウジアラビアがロシアの介入に反対したのは、シーア派大国イランの中東への影響力拡大を警戒するからで、サウジにとっては、同胞団よりもイランが脅威だ。事実イランは、ロシアと共にシリア最大の都市アレッポの奪還に向けた軍事作戦を本格化、シリア政府軍は17日、イランとイランのシーア派革命の先兵、レバノンのイスラム教シーア派過激派組織「ヒズボラ」と共に、アルカイダ系「ヌスラ戦線」と交戦、少なくとも三つの村を奪還した。

 アラブの春が提起した中東民主化を求めた原点に立ち返るなら、国際社会は、イスラム法に固執する全勢力と政権を排除し、民主派勢力、ないしはイスラム法に固執しない勢力を支援して、自由と民主主義を実現させる方向を模索すべきだろう。イスラム法の問題点は、神の言葉だとして文字に固執、時代錯誤に陥ることだ。

 その観点に立てば、エジプトやチュニジア、イラク、リビア、シリア、イエメンの世俗政権を支持し、トルコ国民をしてエルドアン・イスラム政権を打倒させ、イスラム主義からの挑戦に打ち勝たせる必要がある。

 アルアハラム財団の事務局長モハメド・ファイエズ・ファラハト氏は、「米国はアフガンでもイラクでもシリアでも失敗した」と指摘、「アラブ諸国が民主主義国家となるには、外からの干渉ではなく、まず自国の経済を発展させることが先決だ」と訴えた。