アラブ同盟国の信頼失う米国

サウジが国連非常任理事国辞退

 原油輸出とイスラム教をテコに、世界中に影響力を行使してきたサウジアラビアが10月18日、国連非常任理事国入りを辞退、世界に衝撃を与えた。表向き、国連の機能不全を批判したものの、本音は、オバマ米大統領の優柔不断さと同盟国への責任放棄姿勢を批判したもの。オバマ氏は今、国内はおろか、中東、アジア、欧州など全世界の批判にさらされ、「早期のレームダック化」だけとは言い切れない「深刻な事態」に直面している。

(カイロ・鈴木眞吉)

エジプトなどがロシアに接近

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3日、カイロで会談するエジプト暫定政府のファハミ外相(左端)とケリー米国務長官(右端)(AFP!時事)

 サウジの選任は10月17日。同国外務省は翌日、「王国は、安保理の行動様式や、二重基準が、世界平和に対する責任を負っていないとみている」と指摘、「改革遂行まで安保理入りしない」と断言した。安保理入りは国際社会で発言力を増す機会を得られるだけに、「前例がない」(国連外交筋)。

 アラブ諸国の国連大使らは19日、サウジに「敬意と理解」を示した上で、歴史的重要な時期に、安保理を通じ、アラブ・イスラム世界の主張を訴えてほしいと、決定の撤回を求めた。

 しかし、撤回はおろか“余震”が今なお続いている。駐米大使だったバンダル前総合情報庁長官が、「対米関係を大きく変更する」と発言。アブダラー・ムアリミ国連大使が11月8日、「アラブに非常任理事国の永久枠を割り当てるべきだ」と要求した。

 サウジがオバマ氏にここまで抵抗する理由は数多くある。同国は西側が石油不足のたびに生産量を調整、率先して暴騰を抑え、米国には、巨額の戦闘機購入などを通じ、精いっぱいの協力姿勢を維持してきた自負がある。

 サウジが、米国の姿勢変化を感じ始めたのは、「アラブの春」に対するオバマ氏の対応が具体化したころからだ。親米国チュニジアの政変時、サウジはベンアリ前大統領の亡命を受け入れ、オバマ氏に抵抗した。瞬く間に飛び火したエジプトでは、オバマ氏は親米だったムバラク元大統領を擁護することなく、優柔不断に流れに任せた結果、民衆の名の下に隠れていたイスラム根本主義組織ムスリム同胞団を支持した。アラブ・イスラム諸国内に隠然とした影響力を持つ同胞団はサウジにとり、体制を揺るがし得る勢力だが、オバマ氏は、今後の中東のパートナーとして「同胞団とトルコ」を中心に据えた。国王と仲違いしていたリビアのカダフィ氏追放では一致したものの、オバマ氏の決断は遅くサウジをいらだたせた。

 親米国バーレーンの危機には、オバマ氏は一顧だにせず、サウジ自ら軍を派遣してその体制を死守した。

 親米政権を守らず、傍観しているだけのオバマ氏への不信はつのる一方だった。

 さらにシリア問題が勃発。イランと関係が深く、シーア派で反米のアサド政権に対し、スンニ派の盟主サウジは迷わず同政権打倒を支持した。自由と民主主義を求める「アラブの春」を支持する欧米諸国も同政権打倒で一致団結するはずだったが、オバマ氏はアルカイダ系組織に武器が渡るとの理由で、本格支援を長期にためらった。親米政権が倒れることを支援し、反米政権の打倒をためらうオバマ氏に、サウジは業を煮やした。そんな中、化学兵器使用の一線を越えたシリアに対し、一度決断した軍事介入を、土壇場で議会に諮り、大統領権限をも放棄したオバマ氏に、空いた口が塞(ふさ)がらなかったのは無理もない。

 開戦権限を放棄したオバマ氏に頼ることはできないと感じたのはサウジだけではない。中東、アジア、欧州の同盟国は「果たして有事に米国は守ってくれるか?」と考えた。イスラエルに至ってはなおさら、深刻だ。

 さらに、ムスリム同胞団によるイスラム独裁国家化が懸念されたエジプトで、国民と共に第2革命を起こしてモルシ氏を解任、民主国家への道を歩み出した暫定政権に、サウジは即支持表明したが、オバマ氏は軍事支援の一部を停止した。ついにサウジを激怒させたのは、オバマ氏のイラン接近だ。シーア派国家イランの核保有はスンニ派国家の盟主サウジとして断じて許せない。イスラエルも国家の命運を懸けて反対している。エジプトでは、オバマ氏はまもなく辞任に追い込まれるとうわさされているほどだ。

 オバマ氏を頼れないと知った同盟国の一部は、ロシアに接近、ロシアは好機到来と、切り崩しに余念がない。エジプトはロシアと外務・防衛閣僚会議(2プラス2)を11月中旬カイロで初開催する。ヨルダンは10月末、同国初の原発プロジェクトの優先交渉権をロシア企業に与えた。プーチン氏はついに11月10日、アブドラ・サウジ国王に電話し、国際問題全般についての対話を呼び掛けた。オバマ氏に代わりプーチン氏が台頭している。