4ヵ国同時テロで117人死亡 動機はイスラム過激思想

 イスラム過激派による世界規模のテロが6月26日、多発した。仏とチュニジア、クウェートでは、カリフ制イスラム国家の樹立を宣言した「イスラム国(IS)」によるとみられる同時多発テロ。ソマリアでは、国際テロ組織「アルカイダ」系アルシャバーブによるシーア派モスクでの自爆テロだ。死者は4カ国で117人。実行犯は皆、イスラム過激派思想に染まっており、これを放置したイスラム指導者の責任は免れない。国際社会は、本腰を入れて、イスラム宗教思想の中にある暴力正当化の表現を除去する「イスラム宗教改革」を求めるべきだ。
(カイロ・鈴木眞吉)

チュニジア、テロ撲滅へ連帯求める

800

6月26日、チュニジア中部のスースで起きたホテル襲撃事件で、男を連行する治安要員(EPA=時事)

 フランス南東部リヨン郊外のガス工場爆発テロを起こしたヤシン・サルヒ容疑者は、自身が勤務する会社社長の斬首遺体を持ち込み、頭部を、イスラム信仰を示すアラビア文字の書かれた2枚の旗で覆っていた。彼は2006年から08年、イスラム過激派思想に傾倒しているとして当局の監視対象だった。犯行時、「アッラー・アクバル(神は偉大なり)」と叫び、頭部画像などを、シリア・ラッカで戦闘に参加した仏人IS戦闘員に送っていた。

 チュニジアでは、同国北東部の都市スースのビーチとホテルでシフディン・レズギ容疑者が銃を乱射、38人を殺害した。犠牲者は、英、独、ベルギーなどからの観光客で、彼は、北部シリアナ県の大学で電子工学を学ぶ学生だが、チュニジア人を見ると「ここから離れろ」と言い、外国人だけを標的にした。欧米文化を敵視するイスラム過激派思想に傾倒していたことは明白で、ISは彼を、「カリフ制国家の兵士」と称賛、「姦淫、悪行、背教の巣窟を攻撃し、不信心者を殺害した」との犯行声明を出した。

 クウェートでは、サウジアラビア人のファハド・ガッバーア容疑者が、イスラム教シーア派のモスク内で自爆、27人を殺害した。サウジを拠点とするIS系組織が犯行声明を出した。

 以上3件の関連は定かではないが、ほぼ同時刻に国を超え発生した。共通点は、イスラム過激派思想に影響を受けた者が事件を引き起こしたということだ。

 ISは23日、支持者に対し、ラマダン期間中に「不信心者を攻撃し、殉教せよ」と呼びかけており、それに呼応した可能性もある。6月29日が、カリフ制国家樹立宣言から1年となることから、「勢力誇示」「忠誠競争」「ISからの資金獲得」の側面もありそうだ。

 一方、ソマリアに駐留するアフリカ連合(AU)の平和維持部隊の基地を襲撃、約50人を殺害したテロは、アルシャバーブの武装集団数十人によって行われた。実行犯らが、イスラム過激派宗教思想に色濃く染まっていたことは間違いない。

 国際社会は本腰を入れてイスラム過激派思想対策を強化する必要性に迫られている。

 厄介なのは、同思想は単なる哲学思想ではなく、宗教を根底にした、「死を超える力を持つ無敵の思想」だということだ。自爆を多用し得る最強の宗教思想でもある。ISなどは、イスラム教の聖典コーランとハディースにある文章や文字を厳格に適用し、歴史や公民、音楽、体育などを廃止、コーラン中心の教育に限定、「イスラム戦士の大量輩出」に注力している。

 テロの最大の原因がイスラム思想そのものにあることを知っている指導者も数多く、30人もの犠牲者が出た英国のキャメロン首相は、イスラムコミュニティーに対し、ISとの戦いを促した。

 チュニジアのシド首相は事件直後の27日、「モスクがテロに向かう悪意を拡散している」として過激思想を広めるモスクを強く批判、過激派の影響下にある80のモスクを閉鎖する方針を発表した。

 エジプトでは既に、シシ大統領が昨年10月以降、宗教財産省とイスラム教スンニ派総本山アズハルに対し、イスラム思想から暴力表現を削除する「宗教改革」の断行を求めていた。アズハルは、過激思想に染まったムスリム同胞団系説教師を追放、モスクでの過激思想拡大に歯止めを掛けている。

 エジプトの宗教財産省は6月22日、モスクの図書館から過激思想を含む図書を全て一掃すると発表した。正式な資格のない説教者が説教した場合、1年以上の実刑を科すとも発表した。

 チュニジアのカイドセブシ大統領は26日、宗教思想は、国家を超えて繁殖することを見抜いた上で、「一国で対処することはできない」として、「世界的な戦略、国際的な対テロ対策・連帯の必要性」を訴えた。