勢い止まらぬ「イスラム国」 イラク、シリア、リビアで攻勢

バグダディ容疑者が音声メッセージ公開

 カリフ制イスラム国家の樹立を宣言し、中東とアジア、アフリカ各地で着実に支配地域を拡大しつつあるイスラム教スンニ派過激派組織「イスラム国(IS)」の最高指導者、“自称カリフ”のバグダディ容疑者が5月14日、6カ月ぶりに音声メッセージをインターネット上に投稿した。それ以来、同組織の“勢い”が止まらない。
(カイロ・鈴木眞吉)

アフガン全土掌握も狙う

「戦意見せぬ」イラク政府軍

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バグダッド近郊で過激派組織「イスラム国」が占領したイラク中西部ラマディから逃げてきた人々=撮影日不明(AFP=時事)

 バグダディ容疑者が、世界各地のイスラム教徒に対し、「ISに“移住”するか、各国で“武装蜂起”をするよう」呼び掛けた30分の演説に応えるかのように、イラクでは5月17日、最大州アンバル州の州都ラマディを攻略・制圧した。ラマディは首都バグダッドの西約100㌔にある戦略上の要衝だけに、イラク政府にとっては大打撃。

 同20日にはシリアで、中部の古代都市パルミラ全域が制圧された。これでシリア全土の半分以上がISの支配下に入ったのだから驚きだ。15日には子供9人を含む23人が、20日前後には住民400人が殺害されている。

 ISの蛮行を知る世界中の識者は、パルミラ遺跡の破壊に懸念を募らせたが、ISは27日、古代ローマ時代の円形劇場に市民を集め、衆目の中、アサド政権に協力した男性20人を公開処刑した。世界中が予想した以上の残忍さで、“恐怖政治”を断行した。

 リビアにも飛び火した。ISは28日、首都トリポリに政府と議会を創設していたイスラム組織「ムスリム同胞団」系政府(国際社会は未承認。正統政府は東部トブルクに移動)の支配下にあったガルダビア空港(シルトから20㌔南の兼軍事基地)を占拠した。ISがリビアで軍事的制圧を宣言したのは初めて。ISは31日にも、トリポリ政府系民兵組織「リビアの夜明け」に自爆攻撃を仕掛け、5人を殺害している。

 さらに、サウジアラビアのシーア派モスクに相次いで自爆攻撃を仕掛けた。ISは、イスラム教の聖地メッカとメジナを持つサウジアラビアを、シーア派とスンニ派の宗派対立による内戦へと誘導し、混乱に乗じて聖地奪還を意図しているとみられている。

 アジアでも、ISの拡大が続いている。

 中央アジア・タジキスタンで、1カ月前から行方不明になっていた同国治安警察のハリモフ司令官(40)が、シリアに渡航してISに参加したことをネット上で宣言した。彼は、2003年から14年まで、米国とタジキスタン内で五つの訓練コースに参加、戦術指揮や危機対応などの訓練を受けた。米国がIS掃討に用いる内部情報が漏れる可能性が懸念されている。タジキスタン人10人も同行しているという。

 ISは、アフガニスタン西部ファラー州で、5月24日から25日にかけ、イスラム根本主義組織「タリバン」と戦闘を行い、双方で28人が死亡した。ISは、約半年前から同国での活動を始め、今年1月、同国を「ホラサン州」として、新たな領土にすると宣言しており「アフガン全土をISの管理下に置く野望」(モハメド・ファラハート・アルアハラム政治戦略研究所研究員)を持っている。全土掌握は時間の問題との見方すらある。

 この勢いに対し、迎え撃つ側の実態は実に悲惨だ。ラマディ陥落は、敵よりも多数の特殊部隊を含む戦闘員を抱えながら、敵前逃亡したイラク政府軍のふがいなさによることが判明した。しかも、米軍などが供与した戦車や迫撃砲、人員輸送車など大量の武器類を置き去りにした。ムトラク・イラク副首相も、同軍の撤退に「誰もが驚いた」と、絶句した。

 カーター米国防長官が24日、「戦意を見せなかった」イラク政府軍に言及した。アバディ・イラク首相はそれに反発して「彼は誤った情報を得ている。ラマディは数日以内に奪還する」と息巻いた。だが、十数日たっても一向に奪還が実現していない。イラン革命防衛隊のスレイマン司令官は25日、カーター氏の発言を受け、「米国こそ戦う意志がない」と揶揄した。

 ISは6月1日にも、イラク中部サマラ南郊で、治安部隊の基地に自爆攻撃を仕掛け、警官38人を殺害した。