国民の支持失うムスリム同胞団
不発に終わったタハリール広場占拠
過激なイスラム化政策と経済無策により政権発足後わずか1年で国民の信を失い、今年7月に大統領権限を剥奪されたモルシ前大統領の支持基盤、イスラム根本主義組織「ムスリム同胞団」は、“自分達こそ革命勢力である”と主張したいが故に、11日金曜日に、「革命の聖地」と自他共に認める首都中心部のタハリール広場への“突入と占拠”を計画したが、治安部隊と反同胞団勢力による警戒体制に阻まれ、不発に終わった。
(カイロ・鈴木眞吉)
治安悪化で観光業も不振
同胞団による“タハリール広場占拠衝動”は、今までも度々みられ、6日には、第4次中東戦争戦勝記念日を同広場で祝賀中の軍支持・祝祭グループを挑発、広場への突入を試み、同グループや治安部隊と衝突、53人が死亡、271人が負傷、423人が逮捕されるという悲惨な結果を生んだ。
同広場占拠の動機は、「自分達こそ革命勢力」と主張することによって、長期独裁政権打倒・民主主義確立を目指した「アラブの春」の流れの革命の主導勢力であることを誇示、「革命を継続している」と主張したいことにある。
しかし、大多数の国民は、「アラブの春」の流れの革命は、同胞団によって盗まれ、求めた民主主義とは正反対のイスラム独裁体制下に押し込められそうだったところを、軍の助けによって辛くも脱し(モルシ・イスラム独裁政権打倒)、軍の支援(治安維持)で第2革命を進行中と考えている。ことに、第1革命を主導した若者グループらにとって、ムスリム同胞団は「革命の略奪者」にすぎず、同広場に一歩も入る資格のない者たちだ。
タンタ大学のルシディ元教授は「同胞団は、エジプトで1リットル当たり1・1ポンドのガソリンを、密輸トンネルを通ずるなどして(パレスチナ自治区)ガザに大量に運び、14ポンドで売って、その分け前を、(同胞団を生みの親とする、パレスチナのイスラム根本主義過激派組織)ハマスと山分けしていた」と指弾した。預金がほとんどなかったモルシ氏の口座には、大統領職剥奪時までに、数十億ポンド(数百億円)が預金されたという。
同胞団は今、モルシ政権を葬り去った暫定政権憎しの動機から、「嫌がらせと悪さ、小手先の戦略戦術」を弄し、国民に迷惑をかけることばかりに終始している感がある。(1)予告なしの突発的デモを各地の広場で展開し交通渋滞を招く(2)騒々しく太鼓をたたき、シュプレヒコールを上げて、通りを我が物顔で練り歩く(3)通勤通学時の電車に大量動員して車内混乱を助長する(4)線路上に爆発物を設置する――など、例を挙げれば切りがない。
同胞団の無差別で突発的、断続的なデモに最も頭を悩ましている業種の一つは観光業。治安改善なくして観光客は戻らないからだ。観光収入が、スエズ運河航行料と出稼ぎによる海外からの送金と共に3大収入の一つであるエジプトでは、観光客激減による経済打撃は深刻。外貨獲得手段も失われる。
在エジプト日本大使館が、エジプトの危険度を3・5に引き上げたことから、日本人学校の生徒や企業関係者、国際協力機構(JICA)など政府系団体要員も一斉に日本に引き上げたが、つい最近、情勢が少々安定したことを受け3・0にしたことから、生徒や職員らが続々戻ってきた。ただ、旅行客を呼び込むには2・0、JTBなど大手旅行社の募集再開には1・0になる必要がある。
いずれにせよ、同胞団は、治安悪化と観光業不振の元凶として、国家の“癌”と見なされている。
ただ、EUのアシュトン外交安全保障上級代表は3日、同胞団幹部の釈放を求め、米国は同月9日、対エジプト軍事援助の一部停止を決定するなど、暫定政府への圧力を加えている。このことは同胞団を勇気付け、デモを継続拡大させ、治安を深刻化させる可能性があり、要注意だ。
欧米諸国はエジプト国民の目線まで下りて理解を深め、慎重な対応をすべきだ。オバマ政権は、「アラブの春」以降の中東政策の中心に、同胞団とトルコを据えたとされるが、同胞団はもとより、エルドアン政権もイスラム化を強力に推進し、民主化に逆行する傾向を見せていることから、早急に軌道修正しなければ禍根を残しそうだ。暫定政権への圧力強化は、エジプトの欧米離れとロシア接近を促し、対イスラエル関係の悪化を通じ、中東全域の混迷の度は一層増す可能性がある。