イラク有力者ら イスラエルとの国交求め会議

当局は「違法」と非難
参加者全員を逮捕へ

カギ握る米「把握せず」

イラク北部クルド人自治区の中心都市アルビルで9月24日、イラクとイスラエルとの国交正常化を奨励するための会議が開催され、イスラム教スンニ派やシーア派の部族指導者、社会活動家、元軍司令官など300人以上が参加した。イスラエルのベネット首相は、著名人が多数集まったことを称賛し、イラクの人々の呼び掛けに「イスラエルは平和的に手を差し伸べる」と述べた。一方、イラク国内では非難を呼び、政府当局は「違法な会議」に参加したすべての人々を逮捕すると発表した。(エルサレム・森田貴裕)

 会議は、イスラエルとアラブとの関係改善を推進する「平和コミュニケーションセンター」と呼ばれるニューヨークを拠点とする非営利団体が開催した。会議には、イスラエルの故シモン・ペレス元大統領の息子で、ペレス平和センターのケミ・ペレス所長らも出席した。

 テルアビブ大学のモシェ・ダヤン中東アフリカ研究センターのイラク専門家であるロネン・ゼイデル博士は、米国の中東ニュースサイト「メディアライン」で、「イラクの世論を代表するものではないにしろ、クルド当局の承認を得て、このような会議が開催されたことは素晴らしい」と述べた。イラクとイスラエルの和平について、「イラクの政治にはイランの覇権が絡んでおり、現状のままでは、正常化は非常に遠い」と述べた。また、「会議に参加した人々は、今、本当の脅威にさらされている」と付け加えた。

 イラク国営通信(INA)によると、イラク当局は26日、イラク文化省の高官ら3人の逮捕状を取り、さらに300人の参加者全員を特定した後に逮捕すると発表した。

 参加者のうち何人かは、イスラエルとの平和を求める宣言を撤回するなどした。米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は、「イラクの覚醒する息子たち」運動のリーダーであるウィサム・ハルダン氏は、イラクが「アブラハム合意」に参加し、イスラエルとの完全な外交関係を結ぶよう求めたと報じた。しかし、今回の会議のメインスピーカーの一人だったハルダン氏は、後に会議への支持を撤回した。他にも、長い間イスラエルとの平和を求める取り組みを主導し、これまでに少なくとも2回のイスラエル公式訪問を行っているアルシ元イラク議会議員は、会議には出席しなかったと主張した。

 イスラエルはイラクのクルド自治政府に対して軍事支援をするなど、非公式で関係強化を行っている。イスラエルは1960年代から70年代にも、クルド人地域にイラン経由で支援を行っていた。革命前のイランとイスラエルは親米国家として重要なパートナーだった。

 イラクは、イスラエルが建国した1948年の第1次中東戦争が始まって以来、67年の第3次中東戦争、73年の第4次中東戦争など、イスラエルと戦いを続けてきた。サダム・フセイン政権下の80年代、地域の大国だったイラクは、核兵器の開発計画を秘密裏に進めイスラエルを警戒させた。その結果、82年にイスラエル空軍機がオシラク原子炉を攻撃し破壊している。91年には、イスラエルを湾岸戦争に引き込もうとして、テルアビブとハイファに数十発のスカッドミサイルを発射した。

 米当局は声明で、今回の会議について「事前に把握しておらず、参加者と提携していなかった」と述べている。シンクタンク・ワシントン近東地域研究所(WINEP)のロバート・サトロフ取締役は、「問題は、米政府がイスラエルとの平和を拡大しようとする勇敢なイラク人を支持するかどうかだ」と、ツイッターで指摘した。

 トランプ前米政権時のデービッド・フリードマン前駐イスラエル大使は、「これを機に米国は、イラクを平和の輪に入れるために極めて重要な役割を果たすことができる」と述べているが、バイデン政権に動きはない。

 イラク当局は、パレスチナ問題の解決なしには、イスラエルとの正常化はしないとしている。