トルコで連日の首相退陣要求デモ

収賄事件に閣僚、高級官僚らが関与

強権姿勢強めるエルドアン首相

 トルコの首都アンカラや最大都市イスタンブールで2月25、26の両日、エルドアン首相の退陣を求める大規模デモが行われた。昨年12月中旬に表面化した、同政権をめぐる大規模収賄事件への対応での首相の強権的な姿勢などを糾弾したものだが、トルコ議会は2月28日、首相が告発する「政敵」の経済基盤に打撃を与えるためか、国内にある4000もの私立学校の閉鎖法案を可決した。(カイロ・鈴木眞吉)

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2月22日、イスタンブールで、警察と衝突するデモ隊(EPA”時事)

 収賄事件が表面化したのは昨年12月17日。トルコ警察が、一年がかりの内偵捜査を経て、建設事業での贈収賄疑惑に絡み、3閣僚の子息や著名財界人ら少なくとも51人を拘束したことによる。エルドアン政権は汚職撲滅を訴えてきただけに、衝撃は大きかったものとみられるが、同首相の息子も関与したとの疑惑が浮上、さらに最近、同首相自身が事件にかかわった可能性を示す録音音声が、ユーチューブ上に流されるに至って、首相は厳しい立場に追い込まれた。

 この音声は、事件が明るみに出た直後、首相が息子に電話して、息子の家にある現金約3千万ユーロ(約4千万㌦)を他の場所に移すよう指示した隠蔽(いんぺい)工作の様子が録音されているもの。首相府は24日夜、「偽造」「嘘」「合成」だとして直ちに否定した。

 事件を受け、関係閣僚の辞任が相次いだが、同首相の強権体質を示す一例とも言えようか、事もあろうに、事件の捜査を行っていたイスタンブール警察のトップを含む数十人のトルコ警察幹部を「権力の乱用」を理由に20日までに更迭したのだ。首相はその理由を「政権を貶める汚い作戦を実行した」とした。捜査により事実関係を明らかにすることが先決であるにもかかわらず、独断で捜査担当から外したことは、息子を通じ自身に降りかかる火の粉を振り払う狙いがあったとみられても仕方がない。

 エルドアン政権は25日、辞任した3閣僚(最終的には5閣僚)を含む10閣僚を交代させる内閣改造を決定した。後任には同首相の側近や与党・公正発展党幹部を起用、首相に都合のいい体制固めを行ったとみられている。

 さらに驚くべきことは翌26日、汚職疑惑の担当検事が、「圧力を受けて捜査が妨害された」とする声明を発表した。イスタンブールの主任検事と警察幹部らからの圧力があったため、それ以上の容疑者の身柄拘束が阻止されたのだという。

 辞任した閣僚からも、首相批判が飛び出すようになり、国内各地では、首相退陣を求めるデモも始まった。

 警察に対する圧力は年を越しても引き続き行われ1月7日、今度は首都アンカラの警察官350人が解任された。トルコ国家警察副長官も含まれていた。これにより、一連の汚職疑惑関連で解任された警察官の総数は、アンカラだけで560人に上った。

 それに対し、同国の最高司法機関である「裁判官・検察高等委員会」は同日、新任のイスタンブール警察署長と検察幹部らに対する捜査に着手した。先に述べた、疑惑にかかわった容疑者の身柄拘束を妨害したことなどへの捜査だ。

 その捜査について、エルドアン首相は、現在米国に亡命中で、司法や捜査機関に絶大な影響力を持つとされるイスラム聖職者フェトフッラー・ギュレン師の「政府転覆を企てる卑劣な陰謀だ」と非難している。

 遂にトルコ議会は2月28日、首相の「政敵」ギュレン師の経済基盤に打撃を与えるためか、国内にある4000もの私立学校の閉鎖法案を可決した。

 エルドアン首相に批判的な識者らは、同氏が自らの取り巻きを守ろうと必死になっていると批判。さらに、後任のイスタンブール警察署長は、警察と無縁の元知事だったことから、事件の捜査阻止を目的に選任されたと批判している。

 強権的姿勢の原因として考えられる一つは、同氏の持つイスラム根本主義に基づく宗教的・思想的背景だ。民主主義者以上にイスラム主義者であることから、妥協ができない硬直姿勢が高圧的姿勢を後押ししているようだ。

 国際社会との摩擦も多い。イスラエルとやり合ったかと思えば、エジプトの暫定政権を批判、相互に大使を引き揚げた。アラブ連盟元駐米大使のハッスーナ氏は、エジプト・トルコ間の友好の歴史を指摘した上で、「エルドアン政権が、エジプト国民の選択を尊重しなかったことは遺憾だ」と語り、暫定政権を承認しようとしないエルドアン氏を批判した。