払拭できぬ偽装平和の疑い 高永喆氏
拓殖大主任研究員 高永喆氏
首脳会談は予想した通りの結果だった。南北関係改善や交流増進に向けた合意はあったが、最大の焦点である非核化問題で、金正恩委員長は「完全かつ検証可能、不可逆的な核廃棄」(CVID)に全く言及しなかった。はっきりとCVIDを宣言すれば意義深い会談になったが、「完全な非核化を通じて核のない韓半島を実現するという共同の目標を確認する」とか、「それぞれ自身の責任と役割を果たす」という曖昧な表現にとどまったことを見ると、北朝鮮は時間稼ぎのため偽装平和戦術のシナリオ通りに動いているという疑いを払拭(ふっしょく)できない。融和の雰囲気は高まったが、キーポイントが抜けた首脳会談だった。
北朝鮮は、核攻撃を受けても反撃できる潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)北極星の発射実験を5回以上行っており、それを搭載できる2800㌧級の大型潜水艦が年末までに完成する見通しだ。それができれば完璧な核報復が可能となり、米国も敢(あ)えて核攻撃できなくなり、北を核保有国として認めざるを得なくなる。だから、それまで時間稼ぎをしたい。
とりわけ米国は今年11月に中間選挙があるので、トランプ大統領が支持率を上げるため、北朝鮮への空爆に踏み切る可能性がある。南北の経済交流や軍事交流を増やして融和ムードを作り出すのは、米軍の軍事行動を回避するためだろう。文在寅大統領が今秋、平壌を訪問することにしたが、軍事行動の回避にぴったりのタイミングだ。