北朝鮮のシナリオ通りに、米朝首脳会談決まる
平昌冬季五輪を舞台にした韓国と北朝鮮の当局間対話でトントン拍子に決まった来月末の南北首脳会談開催の興奮(?)が冷めやらぬ中、今度は金正恩・朝鮮労働党委員長の提案で5月にも初の米朝首脳会談が開催されることになった。(編集委員・上田勇実)
「非核化」の真意は不明
一連の南北・米朝首脳会談合意には2人の主役がいる。シナリオを描いた北朝鮮とそれに沿って生き生きと演じる韓国だ。
北朝鮮のシナリオは今年の金委員長による新年辞から始まった。北朝鮮ウォッチャーが注目したのは次のくだりだ。
「新年はわが人民が共和国創建70周年を大慶事として記念し、南朝鮮(韓国)では冬季オリンピックが開かれ、北と南にとって共に意義ある年だ」
これは「制裁強化のあおりを受け対話路線に転じた金委員長」(南成旭・高麗大学教授)が「自らの実績と権威を示す必要がある9月9日の労働党創立70周年に向け外貨稼ぎをするため、制裁緩和の突破口として北朝鮮に融和的な韓国・文在寅政権下での五輪に目を付けた」(韓国大手紙論説委員)ものだという。
新年辞以降、南北間のやりとりは事前に申し合わせていたかのごとくスムーズに行われ、特使団の相互訪問の末、11年ぶりとなる南北首脳会談の開催合意にこぎつけた。
これをめぐり「局面打開を探る北朝鮮に新年辞で五輪参加を宣言するよう持ち掛けたのは文政権の方だった」との情報まで飛び交った。
南北首脳会談は韓国歴代大統領が欲してきた業績だ。また6月には統一地方選を控え、与党への追い風にもなる。
北朝鮮は南北首脳会談合意をテコにその3日後には米朝首脳会談合意を取り付けるという“離れ業”をやってのけた。例によってサプライズ効果は大したものだが、金委員長が言及したという「非核化への意志」で各論は何も分かっていない。
ある元韓国政府高官は「在韓米軍や韓国を守る米国の核の傘を撤収させた後に非核化するというタイムスケジュールだったらどうするのか。非核化を最大限引き延ばそうという思惑が隠れていないか見極めが必要」と述べた。北朝鮮が首脳会談呼び掛けの際に米国に投げた球はクセ球である可能性がある。
金委員長を「リトルロケットマン」と揶揄したトランプ米大統領が金委員長との首脳会談に応じたことに素早く反応したのが日本だ。発表後すぐ安倍首相はトランプ米大統領と電話会談を行い、南北・米朝首脳会談を前に来月訪米し日米首脳会談を行うと明らかにした。
「核放棄する時は独裁体制が崩壊する時」といわれる北朝鮮が投げた米朝首脳会談という球が「非核化」というストライクゾーンに素直に投げ込まれるとは限らない。安倍首相は、北のクセ球を捕逸してケガを負わないようトランプ大統領への説得戦を試みるとみられる。
日本政府関係筋はこう指摘する。
「日本は米国の開戦(対北攻撃)を押しとどめ、次は和戦(米朝対話)にブレーキを掛けなければならない立場。米国が北の核を認める政策に変更することだけは回避したい」