異母兄、正男氏の暗殺 中国が切り捨てた可能性


駐欧州の金一族に動揺も

 金正男氏の暗殺計画は過去にも何件か報じられたことがある。最初に報道されたのは2004年11月だ。「後継者問題に絡んで反正男グループが正男氏をウィーンで殺害しようとしたが、その情報をキャッチしたオーストリア内務省はすぐに駐オーストリアの北朝鮮大使に連絡し、暗殺計画の中止を要請。そのため、正男氏暗殺計画は阻止された」という内容だった。

金正男

北京空港に到着した北朝鮮の金正男氏とみられる男性=2007年2月(時事)

 2009年6月には、「北朝鮮の金正日労働党総書記の長男・金正男氏がマカオで後継者に決定した総書記の三男・金正恩派によって暗殺されかけたが、計画を事前にキャッチした中国側が正男氏を保護した」というものだ。

 この2件のニュースはのちほど、いずれも偽情報だったことが明らかになったが、暗殺情報がたびたび治安関係者や報道関係者の間を回っていた事例である。

 最近では、韓国聯合ニュース(2012年10月9日)が、「脱北者を装って韓国に潜入し、活動していた北朝鮮国家安全保衛部所属の工作員が逮捕された。同工作員は故金正日総書記の長男、正男氏に対するテロ指令を受け、その準備活動をしていた疑いがもたれている」と報じた。

 金正恩氏が今回、異母兄暗殺にゴー指令を出したとすれば、考えられるシナリオは①正男氏の「韓国亡命説」。駐ロンドンの北大使館のテ・ヨンホ公使夫妻が昨年韓国に亡命し、平壌を震撼させたばかりだ。北当局は神経質になっている。②「中国工作員の関与説」。

500

 ②のシナリオが正しいとすれば、金正恩氏の訪中計画が近日中に浮かび上がってくるだろう。正恩氏にとって、正男氏の暗殺で中国との関係改善の大きな障害がなくなったことを意味するからだ。中国側がこれまで保護してきた正男氏を切り捨てた可能性がある。

 また、看過できないことは、金正男氏が暗殺されたことから、海外に住む金ファミリーに大きな動揺が起きる可能性が考えられる。駐チェコの金平一大使(故金日成主席と金聖愛夫人との間の長男)や駐オーストリアの金光燮大使(故金日成主席の娘婿)はいずれも金正恩氏の義理の叔父に当たる。彼らの今後の動向から目を離せない。

(ウィーン・小川 敏)